光の国18
トロールから村を救って一週間後。
こちらの世界でも曜日は存在するらしい。
ただし微妙に僕のいた世界とは違う。
順番に光曜日、木曜日、火曜日、土曜日、金曜日、水曜日、闇曜日となる。
光曜日は大陸中が休みの日らしい。
要するに日曜日のことだね。
ともあれ一週間後……僕とフォトンは光の国の要塞都市についていた。
そして捕まった。
え?
意味がわからないって?
僕にもわからないよ。
王都の命令によって光の国から魔の国に行こうとした人間は全て要塞都市にて捕縛されることになったらしい。
当然フォトンを逃がさないためだろうけど、それにしてもやりすぎじゃ……。
「ま、ライト王の気持ちもわからないこともないから複雑な気分」
そんなことを僕は呟いてみせる。
ちなみに僕とフォトンは変化の術によって義父と義妹の姿になっている。
それでも捕まるのだから徹底している。
義妹の姿をしたフォトンが牢屋の中で呟く。
「まさかここまで荒っぽい方法をとるとは……」
ダモクレスの刃を恐れる身としては当然だと思うけど。
僕がそう言うと、
「だからとてこんなやり方が通ると?」
ジト目でフォトンが僕を見る。
僕を睨んでもしょうがないじゃないか……。
ともあれ、
「どうにかして抜け出さなくちゃね」
「私が魔術で吹っ飛ばしましょうか?」
「それは最後の手段だね」
何物騒なことを言ってるのかな君は?
僕とフォトンが押し込められたのは要塞都市の刑務所……その牢屋の一室だ。
この要塞都市は魔の国との国境を守るために存在するらしく、戦術都市とでも呼ぶべき攻撃的な性質を持つ都市であるそうな。
フォトンの受け売りだけど。
「で? どうします? 私の魔術を使わずにどうやってこの牢屋を出るんですか?」
「まぁ力技で」
手錠をされていない事と四次元ポケットが没収されていない事が不幸中の幸いだ。
まぁ四次元ポケットについてはフォトンが胸元に隠しているため男だらけの兵士たちが手を出せなかったという理由もあるのだけど。
閑話休題。
鉄格子に囲まれてはいるけど、そんなモノは障害の内に入らない。
僕は、オーラを広げて印を結び、
「透遁の術」
と僕とフォトンの姿を透明にする。
ちなみに変化の術は既に解いている……念のため。
そして呼吸法を利用して鉄格子に腕を絡めると万力を生み出して鉄格子をこじ開けて牢屋を抜け出した。
フォトンが僕の捻じ曲げた鉄格子を見て言う。
「たまに思いますがマサムネ様は規格外ですよね……」
「君がそれを言うのかな?」
不老不病不死に言われてはたまったモノじゃない。
とにもかくにも牢屋は出たのだ。
後は刑務所を出て要塞都市を出て魔の国に行くだけである。
「四次元ポケットは持ってるよね?」
「よじげんぽけっと?」
「ああ、その……何でも入る不思議な皮袋」
「はいな。ちゃんと持ってますよ」
そう言って出してみせるフォトン。
「ん。結構」
頷いて僕とフォトンは刑務所を出る。
透遁の術で透明になっているから誰にも知られず刑務所を出られた……と思った瞬間、ラッパ音が都市中に鳴り響いた。
「何? 何の音?」
「私たちが脱走したのがバレたんです! 急がないと魔の国への門が閉まりますよ!」
ちなみに要塞都市の名の通り、要塞と化しているこの都市は二十メートルの高さを超える壁に囲まれている。
下手な魔術では傷つかないレベル。
高さが高さなのでフォトンを担いで飛び越えることもできない。
さて、どうしよう?
僕がそう悩んでいるとフォトンは僕の手を取って、
「大丈夫ですよマサムネ様……後は私に任せてください……」
そう言いニッコリ笑ってみせるのだった。
「何をする気?」
「ファイヤーボールで門をこじ開けます」
ちなみに既にラッパ音を聞いた門番は鉄の門を閉じようとしていた。
僕は感心した。
「ファイヤーボールか……なんだ……ちゃんとした魔術も使えるんじゃないか……」
ファイヤーボールと言えばゲームとかでよく出るアレである。
小さな炎弾を生み出して撃ちだすポピュラーな魔法。
「マサムネ様……私の手を握って離さないでくださいね」
「そりゃそう言うのならそうするけど……」
「離したら死にますからね」
……え?
嫌な予感とはこういう感覚を言うのだろう。
何はともあれ僕とフォトンは魔の国に通じる都市の門目掛けて疾駆した。
そしてフォトンの左手が僕の右手を強く握って、当人は右手を天に掲げて呪文を唱えた。
「我火気を纏って世界に命ず! ファイヤーボール!」
次の瞬間、天に手を掲げたフォトンの右手の先から太陽が生まれた。
太陽が地表に現れたらこうなるだろうというイメージをかきたてられるほどの巨大な炎の塊がフォトンの右手から生まれたのだ。
さんさんと輝く火の玉はまさに太陽と形容して間違いあるまい。
フォトンはその巨大な炎弾を鉄の門に叩きつけた。
どうなったかって?
言わずともわかるだろう。
巨大な炎弾が炸裂したのだ。
要塞都市の一部が炎の炸裂に巻き込まれて蒸発した。
鉄の門など一欠片も残ってはいない。
そしてフォトンと……それからフォトンの手を握っている僕だけが灼熱地獄の中の生存者だった。
無茶苦茶だ。
要塞都市の四分の一が吹っ飛んだのだ。
フォトンの魔術は戦術級だと聞いていたけど、それにしたってコレはない……。
「どこがファイヤーボール!?」
僕がそうつっこんだのもしょうがないことだったろう。
「火の玉という意味なんですからファイヤーボールでしょう?」
当然とばかりにフォトン。
「それより早くここを抜けましょう? ちんたらしていたら兵士がやってきますよ」
僕の手を強く握って、ほがらかにフォトンは笑うのだった。
もうどうにでもな~れ。