渚の国20
そんなわけで二人で風呂に入って全員で夕食を取り、それから僕とフィリアは夜中になると地下のバーに来ていた。
カウンターの席に座ってフィリアがバーテンダーに酒を頼む。
僕はグレープフルーツジュースを頼む。
フィリアが頼んだのはシングルカスク。
混じり物のない酒だ。
チェイサーと一緒に渡される。
キュッと飲むと香りが口内を支配してアルコールが喉を焼く……と満足げなフィリア。
存分にソレを味わってからチェイサーで口直し。
こっちの酒造技術も捨てたモノではないらしい。
「マサムネちゃん」
「何でっしゃろ」
「お姉さんのこと……好き?」
「好意的ではあるよ」
迂遠に言った。
「まぁその程度よねぇ」
ウィスキーを飲みながらフィリアは不満げだ。
「とりあえずツナデとフォトンが居るからね」
「ウーニャーも好きでしょ」
「まぁ保父性をかき立てられるのは事実だけど……」
「お姉さんは?」
「お祈りします」
「にゃー!」
「ハイペースで酒を飲みすぎだ」
水を注文してフィリアに渡す。
「言っとくけど酔ってないよ?」
「さいか」
酔っ払いは皆そう言う。
僕はジュースを嗜んで楽しんでいた。
「酒を飲めるのは今はお姉さんだけでしょ?」
「まぁ付き合おうと思えばフォトンとイナフは出来るでしょうけどね」
三十路越えだ。
というかこっちの世界に飲酒における年齢制限は存在しないのだけど。
フィリアが焼けた口内をチェイサーで静める。
「お姉さんとちょっと火遊びしようとは思わないの?」
「別段拒否することもないけど殺されるよ?」
「返り討ち」
「無理だろうね」
フィリアのトライデントが強力なのは承知の助だけど、あくまでそれは、
「先手を取ったら」
に終始する。
「むぅ」
唸るフィリア。
「しかしフィリアと二人きりでバーってのは珍しい光景だね」
「ふふーん。大富豪様の恩恵よ」
トランプの大貧民に勝ったくらいでよくもまぁ。
「ちょっとくらいつまみ食いしようとも思わないの?」
「童貞ですんで」
カクテルを注文。
ノンアルコールだ。
「マサムネちゃんさえ望めばウーニャーちゃんはともかくお姉さんたちは抱かれてあげられるわよ?」
「純情な少女が好きなモノで」
クイとグラスを傾ける。
爽やかな甘みが良い刺激。
「つまんないの」
「別段見切ってくれて良いんだけどね……」
「別の男を捜せって?」
「まぁそうなるかな?」
「マサムネちゃんより格好良い男っているかしら?」
「そもそも僕がさほどのモノではないんですけど……」
「マサムネちゃん格好良いよ? 自覚無い?」
「とは言わんけど……」
ウーニャーはインプリンティングだとしても他の面々は僕を魅力的に想っていることは僕とて把握はしている。
おかげでハーレム所帯を連れて観光旅行なんてことになってるんだけど。
「でもおっぱいはお姉さんが一番大っきいんじゃないかな?」
「別段そこは評価基準じゃありません故」
「ロリータ?」
「はっはっは」
殺すぞ。
グラスを傾ける。
「何も思っていないわけじゃないよ」
「仮にそうならお姉さんだって付き合ってないわよ」
「だよなぁ」
本格的に拒絶すべきか?
「表面上の言葉で説得できるなら……ね?」
心を読まないで欲しい。
プライベートな問題だ。
「とりあえずは……フォトンちゃんとツナデちゃんがライバルね。副次的にはウーニャーちゃんも」
「頑張れ」
「誠意がこもってないわよ~」
グラスを傾けながら僕に寄りかかってくるフィリア。
さっきからパカパカ飲んでいたため呑まれたのだろう。
「だってあの二人が一番恩があるしね……」
カクテルを楽しむ。
「童貞」
「ですな」
「ヘタレ」
「異も無い」
「唐変木」
「一応恋慕の情については把握済みだけど……」
「後腐れは残さないから」
「僕の慕情に決着がついてからもう一回言ってね」
嘆息してノンアルコールカクテルを飲む。
それはアルコールの様に焼けるのか?
それとも嫉妬の情故か。