渚の国15
次の村に着いた。
曰く、
「この次に大都市がありますよ」
とは商人さん。
そこまでは護衛として馬車に乗せてくれるとのこと。
有り難いね。
で、僕はと云うと、
「叱っ!」
「破っ!」
ツナデとイナフの訓練に付き合っていた。
基本的に僕とツナデは互角だ。
そこから一歩下がってイナフ。
フォトンとウーニャーとフィリアは近接戦闘に置いては門外漢。
のでドーリと商人さんとでトランプに興じているところだろう。
さすがの僕でもウーニャーを頭に乗っけながらツナデとイナフの相手は出来ない。
ツナデに間合いを詰める。
拳を放つけど、
「……っ!」
それは蛇のように絡み取られて合気で返される。
僕はその力に流されて不本意な体勢を強いられるけど、
「まあ、だよね」
覚っていたことではある。
勁を練って体勢を立て直す。
背後からイナフの一撃。
背中を向けたまま上半身を九十度回転させ、その反動で足を背後に蹴り上げる。
イナフの攻撃をいなした後、
「疾っ!」
急激に回転。
ツナデを牽制して、イナフに一撃を決める。
「っ!」
軽く打ったので致命傷ではないけど一本取られたことには違いない。
ツナデが背後から襲いかかる。
姿勢を低く。
膂力は潤沢に。
足払い。
避けられる。
視界をそっちにやってもツナデの影さえ見えなかった。
頭上。
そう判断した瞬間、
「っ!」
回し蹴りが僕の頭上を襲った。
避難。
後の体勢の整え。
「さすがツナデ……」
「お兄様こそ」
ツナデは蠱惑的に笑った。
「よし」
それでは、
「仕切り直しと行こうか」
そう言って勁を練る。
それはツナデもそうであるしイナフもそうだろう。
武器こそ持っていないものの僕らの技術は殺人に特化している。
まぁ僕とツナデは、
「血の業」
であり、イナフにとっては、
「生きる上での必須技能」
なのだろうけど。
そう言う意味では排斥されながらも忍としての訓練を課してくれた義父には感謝すべきかも知れない。
おかげで異世界でも生きていけるのだから。
むしろ有効活用できると言ってもいい。
強さにさして有効でない向こうの世界と比べてこっちの世界は荒事があまりにも多すぎる。
それを責めるつもりも無いけど、仮に僕が一般ピーポーならどこでのたれ死んでもおかしくなかったろう。
あ、でも、
「仮にそうだとしたら……フォトンの魔術によって異世界に召喚されることもなかったのか……」
フォトンの召喚魔術はフォトンにとって、
「都合の良い相手を召喚する魔術」
であるのだから。
そう考えると微妙だな。
まぁ神を観測できていない世界の僕は排斥されてばっかりだったから、
「色んな女の子に好意を持たれる幸せ」
は代えがたい物だけど。
「ではお兄様……」
「参るよ! お兄ちゃん!」
二人は意気軒昂にそう云った。
「いらっしゃい」
と僕。
一閃。
二閃。
三閃。
全て弾く。
「やぁ!」
イナフの踵回し蹴り。
完璧なタイミングだった。
少なくともツナデの相手をしながら防げる物では無い。
で、あるから、
「…………」
脳のリミッターを外して、これを躱す。
「っ!?」
驚愕するイナフ。
躱された……という事実より僕の反射能力に怪訝を覚えたのだろう。
「お兄様? リミッターを外されましたね?」
「ああ、うん……」
認めざるを得ない。
「では結果的にそこまで追い詰められた、と」
そゆことだね。