渚の国14
「大陸全土をオーラで知覚できるの?」
僕は薬効煙の吸い殻を捨てて膝元にウーニャーを置いた。
ウーニャーは人型になっていた。
虹色の髪に虹色の瞳の美幼女だ。
スットントンの体だけど需要はある人にはあるだろう。
「ふわー。ドラゴンって人型になれるなたぁ」
『ドラゴンであれば何でもありだ』
概ねそんな解釈で間違っていない。
「で」
閑話休題。
「オーラの展開が大陸全土ってどゆことよ?」
「ウーニャー……あくまで感覚的な概算見積もりだよ……?」
「半径十キロメートルじゃなかったの?」
「ウーニャー……慣れの問題」
そういう問題かっ。
まぁ確かにオーラの展開範囲は鍛錬で広げられるけど、それでも才能が必要となる。
「そんな無茶苦茶な。だいたいそれだけのカロリーは……」
とそこまで言ってドラゴンが食事を必要としないことを思い出す。
つまり、
「エネルギーの自動無尽蔵生産」
という方程式が成り立つ。
仮に大陸全土を把握するほどのオーラ展開をしても、それだけカロリーを調達できるのなら不可能ごとではない……のかな?
「じゃあ剣の国とか分かる?」
「ウーニャー……無理……」
サックリ言われた。
「ウーニャー……なんか知りもしない異言語を並べ立てられて『さあ翻訳してみろ』って云われてる気分……」
まぁ確かに。
オーラの展開と、ソレによる情報の取捨検索は同一の能力ではない。
であればウーニャーのオーラ展開による検索範囲内の肯定は決して僕らにとってのマイナスではない。
むしろ強みの一つとなるだろう。
「とりあえず」
と僕は云う。
「オーラの感覚認識の修行をしようか?」
「ウーニャー……あんまり気持ちの良い能力じゃないよ……」
「そりゃまぁ……」
何も準備しないで大陸全土にまでオーラを広げたらねぇ……。
「海と陸の違いくらいは分かるけど……状況観察は砂漠で一粒の砂を見分けている気分」
「それもまぁ……」
云いたいことはよく分かる。
だから、
「とりあえずオーラによる感覚知覚の慣れから始めよう」
「ウーニャー?」
ウーニャーは分からなかったらしい。
とりあえず、
「オーラを半径一メートルくらいに展開してみて?」
「ウーニャー」
人型のままウーニャーはオーラを展開する。
僕の膝元で。
僕はウーニャーのオーラを感じながら膝元のウーニャーに見えないように右手で人差し指を伸ばす。
「僕の右手の数字は?」
「一!」
今度は三本伸ばす。
「違い分かる?」
「ウーニャー! 三!」
「偉い偉い」
僕はウーニャーの頭を撫でた。
「ウーニャー……えへへぇ……」
「さっきからおんしたちは何を仰ってるので?」
商人さんが難しい顔をして馬を御していた。
「オーラの能力について」
「オーラ?」
「ええ」
特に説明する気も無い。
それを覚ったのだろう。
それ以上商人さんはツッコミを入れなかった。
「ウーニャー?」
「ウーニャー!」
「ウーニャーはこれからオーラによる知覚の修行を課すよ?」
「ウーニャー! 嫌!」
「パパの言うことでも?」
「ウーニャー……」
僕には弱いらしい。
「愛い奴愛い奴」
僕は虹色の髪を撫でた。
「ウーニャー」
恍惚な声で喜ぶウーニャーだった。
「じゃ、これからは徐々にオーラを広げていって、その感知する物が何かを当てる作業に入ろうか」
「ウーニャー」
「ラセンに対する信号にも為るし」
「ウーニャー……なんで?」
「ラセンも遁術の使い手ならウーニャーのオーラは感知しているはずだから」
「なるほど」
そしてウーニャーはドラゴンの姿に戻って僕の頭の上に乗っかった。
まぁ急ぐ事でも無い。
僕は薬効煙をくわえて火を点ける。
プカプカ。
しかしてドラゴンの潜在能力には舌を巻く他ない。
今更ながらそんな驚愕に捕らわれている僕だった。