渚の国13
「やっぱり馬車はいいなぁ」
ガタゴト。
見知り合った商人さんの馬車の護衛。
報酬は先述。
正直僕はともあれヒロインズの戦力から鑑みるに金貨の四、五枚は正当な報酬なのだけど懐は潤っているためガツガツすることもない。
貧すれば鈍するものだけど、その心配をすることがないほどの貯金はある。
※フォトンとツナデの財布にですけど。
オーラを展開して半径十キロの範囲を索敵するも引っかからず。
「平和だねぇ」
僕はトランプに興じるヒロインたちを差し置いて、薬効煙を吸っていた。
商人さんの隣で。
「ウーニャー……」
ウーニャーも定位置でのんべんだらり。
そこまで僕の頭の上は落ち着くのだろうか?
今更だから聞かないんだけど。
「ところで」
とこれは商人さん。
「お前様はハーレムつくってけんもほろろ?」
最低だ。
主に僕の立ち位置が。
「まぁそんなところです」
「これでも色々な人間と商売してきたからね。二、三言を交わせば分かるよ。四人ともお前様にべた惚れだ」
「ウーニャー! ウーニャーも!」
「こりゃ失敬」
まったくだ。
「何がお前様をそこまで純潔たらしめる?」
「黙秘権を行使します」
「本命とか居るのかいな?」
「黙秘の自由を行使します」
「まぁよかばってん」
商人さんはあっさりと引いた。
「ウーニャーさんは珍しか色のドラゴンたいね」
まぁドラゴンは竜の国に入り浸っているため人類にはさほど浸透していないだろう。
堕天使が現れても即滅却できるだろうし。
少なくとも七頭の竜王たちにおいては、
「堕天使ごとき如何なもの」
というレベルだ。
色々と迷惑千万な能力の持ち主ではあるんだけど浮世に興味が無さそうであるため、その点については良く出来ている。
巫女としても、
「ドラゴンは秘境に住まう者」
という観念で世界を変革させたのだろうし。
「…………」
薬効煙を吸って煙を吐く。
「こっちにも一本」
スッと目を細める。
「金銭の都合ならいくらでも相談させてくれ」
「別に商売するつもりがないのは先述しました」
そして僕は、
「木を以て命ず。薬効煙」
薬効煙の入った直方体の紙袋を商人に渡した。
「タダで受け取っていいんかい?」
「魔術で創り出した物だから特にこっちに損はないし」
「火を貰っても?」
「へぇへ」
箱から薬効煙を一本取り出して商人さはくわえる。
そして僕は、
「火を以て命ず。ファイヤー」
と魔術を起動。
結果として商人さんのくわえた薬効煙に火を点ける。
スーッと吸ってフーッと吐く商人さん。
「不思議な味じゃ」
「一種の鎮静剤ですよ」
「麻薬じゃろ?」
「ある意味では」
別段誤解を解いたところで得るものが無いため半端に肯定した。
プカプカ。
「ウーニャー!」
「どしたのウーニャー?」
「頭がこんがらがりそう」
「?」
意味不明だった。
「オーラによる知覚!」
「まぁ慣れないとそうだよね」
ほとんど触覚に近いような感覚だ。
熱や痛みを排除した。
ましてウーニャーのオーラ展開範囲は五里。
僕同様だ。
そしてフォトン同様でもある。
そう云うと、
「大陸全土を検索して得られる情報が多すぎて頭パンクしそう」
ズリっと僕の来ている喪服が肩から滑り落ちた。
「今、なんて仰いました?」
「大陸全土を検索して……」
「ソレ。大陸全土? オーラの半径が?」
「ウーニャー!」
「マジで?」
「マジで」
えーと……。
ちょっと整理できない。
議論する必要があるだろう。