渚の国12
「久しぶりのベッド~」
僕らは商人の護衛役として報酬の一環で民宿に部屋を借りて今日はベッドで寝ることになった。
当然民宿であるから部屋の数は少なく、相部屋必須。
喧々諤々。
熱心な討論の結果、
「トランプで勝負をつける!」
と息巻いて大貧民が行なわれた。
「何じゃいそりゃあ」
とは商人の言。
まぁトランプを見て驚くのは今更だけど。
そんなこんなで商人を巻き込んでのトランプ大会。
勝者はフォトンと相成った。
努力賞として商人にはトランプをプレゼント。
ソリティアのルールを教えて託す。
魔術で幾らでも作れる以上、損になることでもない。
で、
「マサムネ様?」
フォトンが熱に浮かされた瞳で僕を見た。
裸ワイシャツ。
元より喪服を選んで着ているのだからそういった格好も出来ないではない。
「今日こそ致しましょう?」
蠱惑的な声だった。
聞く人間を恋に落としてしまうような。
堕落の第一歩。
「マサムネ様……」
同じベッドで寝るため必然密着する。
「ツナデに殺されるよ?」
「不老不病不死です故」
あ。
そうだった。
やっぱりそうか。
ツナデ。
そしてフォトン。
この二人が僕の心を特に惹き付ける。
平行世界で僕の唯一の味方だったツナデ。
こちらの世界に移してくれたフォトン。
まぁウーニャーも可愛いんだけど。
そのウーニャーはドラゴンの姿ですやすやと眠っている。
「マサムネ様……ことをいたしましょう?」
「却下」
「私では不満ですか?」
「単に僕がヘタレってだけ」
苦笑い。
他の表情は出来なかった。
「都合の良い女の子には出来ないから」
「私はそれで構わないのですけど……」
「構わないんだ……」
「それならばマサムネ様は私たちを分け隔てなく愛してくだされば良いんです」
「ハーレムを作れと?」
「もはやそう云ったものではありませんか」
「…………」
否定はできない。
僕は未だに童貞だ。
女の子を抱いたことがない。
こんなに皆に愛されてるのに。
「マサムネ様……」
フォトンがキスをしてきた。
それもディープな奴を。
「マサムネ様……マサムネ様……」
唇から頬を伝って耳へ。
何処までも淫靡で、何処までも救われない。
「マサムネ様ぁ……」
「フォトン……」
僕らはしばし性欲に酔う。
唾液の交換。
愛情の交換。
そして情欲の交換。
「けど」
それ以上には至らなかった。
「何故ですか」
フォトンは悲しげだ。
「僕はツナデが好きだから」
「でも私のことも想ってくださってるでしょう?」
「それは……」
確かにそうだ。
少なくとも好意の存在はある。
エメラルドで染め上げたような深緑の髪の美少女。
心揺さぶられないといえば嘘になる。
「以前云ったように私はマサムネ様に一目惚れしました」
うん。
覚えてる。
「そうであるためマサムネ様に抱かれるならば……その意図の根幹について私は頓着しませんよ?」
「僕が頓着するの」
「何故です? 私が良いと云っていますのに……」
「乙女には純情を求めるもので」
ケッとふてくされる。
「今はキスで我慢して。もしツナデよりもフォトンを好きになったらその時は抱いてあげるから」
「約束ですよ」
「うん。ゲッシュだ」
「えへあぁ」
恍惚な表情になるフォトンだった。
「ではこれからもよろしくお願いします」
「ん。こっちとしてもね」
その程度の合意はあっても良いだろう。