渚の国09
「お兄様は強すぎです……」
「これでも手加減してるんだけどなぁ……」
「それはまぁリミッターを設けられていらっしゃるのはわかりますけど……」
ギュッと水着姿のツナデが僕の右腕に抱きついた。
ちなみに左腕にはフィリアが抱きついている。
何してるかって野営の即席風呂である。
いつもど~り直方体のお湯の塊に水着に着替えて浸っているのである。
それもこれもトライデント様のおかげです。
夕食も取ったし、これで今日の日課も終わりを告げようとしている。
ちなみに風呂の傍には乱水流の水の球体が衣服を洗濯していたりする。
これもいつものこと。
「マサムネちゃん?」
何でしょう?
「お姉さんの豊満ボディをどうにかしたいと思わない?」
「そりゃ思わないって云えば嘘になるけど殺されるよ?」
「誰に?」
「例えばツナデとか」
僕の右腕に抱きついているツナデの瞳が炯々と燃えていた。
ソにあるのは妬み嫉み。
僕を愛しすぎるが故に他者を拒絶する一種の自動感情。
「お兄様はフィリアの体に興味が?」
あ。
これ答え間違えたら死ぬな。
「フィリアじゃなくて女体に興味のある年頃です故」
他に言い様もないのだけど。
「ではツナデと」
「却下」
「うー!」
「ちゃんとツナデの気持ちは受け取ってるから」
「……本当ですか?」
「インディアン嘘つかない」
「…………」
ツナデの目がスッと細くなる。
その沈黙が怖いんですけど……。
と、
「ウーニャー」
水着姿の人型ウーニャーが僕の胸元に飛び込んできた。
「ウーニャーでも良いよ?」
「さすがに零歳児を相手するほどの勇者じゃございません」
「ウーニャー……じゃあどうすればいいの?」
「十八年後にもう一度言って」
「ウーニャー……」
ハッとなるツナデ。
「お兄様はウーニャーが……っ?」
「だーかーらー違うって」
「ツナデが一番ですよね?」
「暫定的にね」
「あう……」
ギュッとツナデは僕の腕に強く抱きつく。
元々の世界には僕にはツナデしか味方がいなかった。
きっとツナデが居なければ憂き世の苦渋に押しつぶされていただろう。
それはそれで面白いのかもしれないんだけど、なんとか今こうして生きている。
「それはきっと」
「それは……きっと……?」
「ツナデのおかげ」
「あう……」
プシューと湯気立つツナデ。
くつくつと笑ってしまう。
恥じ入って赤面するツナデは趣がある。
そればっかりは言葉にしないんだけどね。
ツナデの怯えもわからないわけじゃない。
僕を独り占めできないのだから。
かと言って血の業から逆らうことも許されなかった。
こちらが立てばあちらが立たず。
あちらが立てばこちらが立たず。
複雑な乙女模様なのだろう。
「ツナデちゃんは可愛いわね」
フィリアは苦笑している。
それについては同意。
「ウーニャー! ツナデはパパが好きなんだ?」
「ていうかこのメンツでお兄様に惚れていない輩がいるとは思えませんけど」
「よね」
「だね!」
有り難い限りだ。
「愛される」
ということにあまり慣れていないため動揺もするんだけど。
でも今が恵まれているのも否定できない。
「ウーニャー」
「なぁに?」
「パパはウーニャーの事好き?」
「うん。まぁね」
「にゃはぁ……」
酩酊したようにウットリ顔になるウーニャーだった。
愛い奴愛い奴。
ギュッと両腕が締め付けられる。
「お兄様?」
「マサムネちゃん?」
「零歳児相手にムキに為らんでも……」
「誰であれお兄様に好意を持つ人間はライバルです」
「蹴落とすんじゃなくて自身を高めることで差をつけてね」
「お兄様が選んでくれるのならば」
「うーん」
困ったちゃん。
「お姉さんでもいいのよ?」
「まぁ期待しないで待ってて」
「放置プレイ?」
そういうことを言わない。