渚の国08
日が暮れた。
僕はいつもの日課である筋トレをしていた。
腕立て伏せ。
腹筋運動。
背筋運動。
スクワット
その他諸々。
筋力は消費すればするほど次に強力な筋力として復活する。
であるため一日たりとも欠かせない。
一応気楽な放浪の旅だけどこればっかりは習慣だ。
全力で筋トレを行なってゼイゼイと疲労の吐息をつく。
次は戦闘訓練だ。
「では参りますお兄様……っ」
ツナデが襲いかかってきた。
互いに無手。
というか武器を持ったら殺し合いに発展するため次善の措置だ。
低く伏せて襲いかかってくるツナデ。
僕は宙に跳んだ。
結果としてツナデの足払いは無意味と化した。
もっとも宙に身を置いている僕と地に足を着けているツナデとでは状況が違うけど。
うねる様に身を回転させるとツナデは低姿勢のまま回し蹴りを放ってくる。
僕はソレを左足で防ぐ。
ズザザッと地面をこすって着地。
「しっ!」
「はいよ」
僕は放たれた崩拳を逸らして零距離に間合いを詰める。
トンと僕の拳がツナデに触れる。
寸勁。
が、成功しなかった。
ツナデは硬気功を展開して僕の寸勁をこらえた。
ほぼ同時に僕の腕を握って、
「っ!」
合気をかけるツナデ。
僕は逆らわなかった。
地に伏せられる。
構わない問題だ。
「これ以上はない」
そう宣言したも同然なのだから。
倒れ伏した僕はそのままツナデの足を掴んだ。
合気。
呼吸を重ねる。
スルリとツナデは倒れ伏した。
同時に僕は立ち上がる。
しばし待った。
ツナデはすぐさま立ち上がって間合いを取る。
「さすがお兄様です……」
「別段特別なことはしてないけどね」
苦笑してしまう。
「イナフ?」
僕はそれを見ていたイナフを呼ぶ。
「何かな? お兄ちゃん……」
「一対二で行こう。ツナデとイナフでかかってきてよ」
「そこまで下に見られるのは不本意ですが……」
「だよ!」
「ご託はいいから」
「上等!」
「だよ!」
そしてツナデとイナフは僕に襲いかかった。
ツナデは崩拳。
イナフは跳び蹴り。
崩拳は左手で押さえ、跳び蹴りは右腕で防御する。
ツナデの崩拳。
イナフの跳び蹴り。
共に威力は抜群だ。
ただ直線的すぎると云うだけで。
イナフの跳び蹴りを防いだ右腕の……その手でイナフの足を掴んでツナデに叩きつける。
「わきゃー!」
イナフが鳴いた。
が、ツナデも逸れ者。
凶器としてのイナフを合気の要領で受け流して手刀を振るう。
受け流す僕。
イナフを手放してツナデに集中。
一閃。
二閃。
三閃。
ツナデの手刀が僕に襲いかかる。
それらが全て一撃必殺なのは僕のよく知るところだ。
で、あるため僕も同じように手刀を繰り出す。
ナイフより切れる刀。
それが僕とツナデの手刀である。
もともと忍の家系で有ったためこういうことには特化している。
一事項。
二事項。
三事項。
互いに必殺の手刀を繰り出して弾き合う。
「……っ!」
ツナデが焦りを覚えた。
イナフだ。
体勢を立て直したイナフが襲いかかる。
鋭い一撃。
しかしオーラで把握している。
隙を突くと云うことはオーラを展開できる人間には通じない。
フォトンとウーニャーとフィリアにはまだ無理だろうけども。
「疾っ……!」
僕は先にイナフに対処して、それからツナデに接近した。
結果としてイナフとツナデが互いに絡まって伏す。
「まだやる?」
そんな僕の言葉は皮肉だったろう。