渚の国06
「舐めてるんだな?」
盗賊たちはこめかみを引くつかせた。
こと此処に及んで、
「だから何だ?」
という態度の僕らに矜持を傷つけられたらしい。
全員が凶器を取り出す。
刃物から棍棒まで様々だ。
一目でわかる。
凶器が手入れされていない。
対するツナデとイナフは完璧な手入れのもとに凶器を取り出した。
僕はと云えば、
「木を以て命ず。薬効煙」
と薬効煙を具現し、
「…………」
くわえて、
「火を以て命ず。ファイヤー」
火を点ける。
火の点いた薬効煙を吸って吐く。
ああ。
落ち着く。
そんな僕に殺気を乗せて睨み付けながら野盗のリーダーは言う。
「男と醜女は殺せ。後は好きにしろ」
そう言った瞬間、下卑た感情は野盗たち全員に伝わった。
「久しぶりの上玉だ」
「楽しませて貰わねえとな」
とりあえず僕とドーリは関係なさそうな案件である。
男と醜女を犯す理由も無いからね。
「では」
「だね」
筋力を弛緩させてツナデとイナフが立ち上がった。
手に持つ短刀。
ソに潜む凶暴性を野盗は察しうる事が出来なかった。
仕方ない。
「では」
「参るよ」
そして二人は疾風となった。
川を背水の陣として、百八十度囲まれた十一人の野盗。
その川に近い野盗の二人にツナデとイナフは襲いかかる。
「疾っ!」
抵抗する間なぞ有るはずも無い。
二人の野盗は二人の美少女によって切り裂かれて無力化した。
「げ……っ!」
「が……ぅ!」
動脈を一閃。
素晴らしい刃の冴えだった。
さすが妹とハーフエルフ。
こと対人戦闘に置いて右に並ぶ者の……無いとは言わないけど希少な二人だ。
「野郎っ!」
「てめっ!」
仲間をやられて熱くなる野盗たちだったが、
「疾っ!」
「射ぁ!」
ツナデとイナフは傷害していった。
「…………」
僕は干し肉をもむもむ。
適当にツナデとイナフの戦いを眺めていた。
喧嘩を売ったのは相手が先だ。
であれば対価は必要だろう。
それが暴力であれ暴虐であれ。
「フォトン」
「何でしょう?」
「パン頂戴」
「はいはい」
フォトンは四次元ポケットからパンを一つ取り出して僕に渡す。
僕はパンを串に刺して炙る。
焦げ目が付いたところで火から離し、
「…………」
もむもむと食べる。
「あの……」
とドーリが尋ねてくる。
僕はパンを食べながら、
「何?」
と問う。
「いいんですか?」
と暴れているツナデとイナフを指差す。
「ああ、気にしなくて良いよ。誰がやるかの違いだけだから」
「?」
とドーリ。
「んー」
と悩んだ後、
「ウーニャー」
と僕は頭の上に乗っかっているウーニャーに声をかける。
「フィリア」
さらにトライデントを握っているフィリアにも声をかける。
「ウーニャー」
「なぁに? マサムネちゃん」
「中央突破」
「ウーニャー!」
「了解」
簡潔に了承する一匹と一人。
そしてウーニャーのドラゴンブレスとフィリアの水分略奪で野盗の対抗意識は根こそぎ蒸発した。
「一人は無事にね」
僕はそう命じた。
そしてその通りに野盗の群れは一人を残して無力化された。
ツナデとイナフとウーニャーとフィリアの活躍によって。
当然はた迷惑なフォトンは手を出していない。
仮に手を出せば僕らまで安全を保証できないからだ。