光の国16
六日後。
「ああ、村が見えてきたね」
時は夕暮れ。
真っ赤に染まる空はとりあえず無視して僕は言った。
「お風呂あるかな。湯浴みくらいはできるといいな」
なにせ三日ぶりの村だ。
宿があることを祈るばかりである。
いや、まぁ、光の国の王都と要塞都市の間にある中間地点と言うだけで宿泊サービスは生業として成り立つのだろうけど。
「久方ぶりにまともな御飯にありつけそうですね」
フォトンが緑色の髪を喜色に揺らしながら言う。
「まったくまったく」
僕も同意する。
そんなわけで見えてきた村へと歩いて近づき、しかして、
「?」
「何でしょう?」
僕とフォトンは疑問に顔を見合わせた。
悲鳴が聞こえてきたのである。
しかも一人の……じゃない。
複数人が悲鳴をあげている。
「何かまずそうですね」
そんなフォトンの焦燥は当然だったろう。
僕もそう思ったんだから。
「……っ!」
「……っ!」
僕とフォトンは村目掛けて駆け出す。
同時に僕は視線の先にある村目掛けてオーラを放った。
そして状況を知る。
「なんだ……これ……?」
それが率直な感想だった。
走りながらフォトンが問うてきた。
「どうしましたマサムネ様?」
「怪物がいる」
「怪物?」
「禿頭の人型なんだけど……サイズがあり得ない。全長が三メートルはある。手にこん棒を持ってて村人を襲っている」
「それって……」
フォトンは心当たりがあるのかこう言った。
「トロールじゃないですか?」
「トロール?」
「はい」
「トロールって……」
いやまぁゲームや漫画では聞いたことあるけど……。
要するにアレだよね。
巨人のモンスター……。
僕がそう述べると、
「はい。そのトロールで間違いありません」
フォトンはいともあっさりと首肯した。
「ともあれ相手がトロールなら騎士や魔術師を派遣しなきゃいけませんね」
「そんなに強いの?」
まぁたしかにオーラで把握するに筋肉隆々だけど……。
「一般人じゃ武器を持ったって歯が立ちませんよ。たった一撃で人を撲殺できる膂力を持つ亜人です」
「なるほど」
「でも私の魔術を使ったら村ごと吹っ飛ばしてしまいますし……マサムネ様は無手……いったいどうしたものでしょう?」
ぶつぶつと思考の環に閉じこもったフォトンに笑いかけて、
「大丈夫。まずは僕たちで何とかしてみようよ。駄目だったら逃げればいいんだからさ」
そう本音全開で言って、そうこうしている内に僕とフォトンは村に着くのだった。
「グガアアアアアアアアアアッ!」
と怪物の咆哮が聞こえてきた。
ビリビリと空気が震える。
逃げ惑う村人とともに大気まで恐怖に染まったのではないかと思えるほどの強靭なイメージを持つ咆哮だ。
逃げ惑う村人たちとは反対の方向……つまりトロール目指して僕は疾駆して、先ほどから展開していたオーラを維持する。
トロールが僕のオーラ圏内に入っているのを確認した後、僕は印を結ぶ。
そして術名。
「雷遁の術」
次の瞬間、僕から放たれた雷が明滅して雷鳴をあげトロールに襲い掛かった。
雷に貫かれたトロールが動きを止めたと同時に、僕はさらに印を結ぶ。
そして術名。
「火遁の術」
今度はトロールの全身が発火した。
灼熱の炎に抱かれて燃えるトロールの体は瞬く間に全身に水膨れを作ったのだった。
さらに僕は印を結ぶ。
そして術名。
「刃遁の術」
術名を言い終えると同時に僕の忍術によって出来た疑似斬撃がトロールの体内をズタズタに切り裂いた。
無論のこと内臓も……そして脳も……だ。
「グ……ア……!」
ととぎれとぎれに吼えた後、トロールは死体となるのだった。
「やれやれ」
僕はオーラを自身の体に収納して、かぶりを振る。
まぁさすがに刃遁の術を受けてもトロールが再生、あるいは生きていられたなら僕にできることはなかった。
ある意味でちょっとした博打だったけど結果良好なのでこれで良しとしなくちゃいけないんだろう。
チョンチョンと爪先で倒れたトロールの頭部をつつく。
反応は無い。
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
さてこれからどうしようかとフォトンに問おうと振り返った瞬間、
「「「「「――――っ!」」」」」
大勢の村人から喝采があがった。
「え、なに? なにごと?」
いきなりなことに僕は困惑することしきりだった。