渚の国02
次の日。
村に着いた。
とは言っても小さなソレだ。
藁葺き屋根の家が幾つかあって小さな麦畑と少数の家畜。
それだけ。
これで税金を納められるのだろうか?
そんなことを思う。
「宿屋はあるかなぁ?」
ぼんやりと呟いてみる。
「ウーニャー」
尻尾ペシペシ。
「無ければ民家に泊めて貰いましょう」
ツナデがそう言う。
「ま、それが最善手だね」
イナフが同調した。
村へと入っていく。
すると、
「まぁ、まぁまぁまぁ」
美少女が一人こっちに気づいた。
麻の服にエプロンを着けた少女だ。
鶏小屋特有の匂いを纏っている。
畜産の最中だったのだろうか?
「これはこれは」
と少女は言う。
「愛らしい旅人ですね」
「恐縮です」
フォトンが代表して言った。
「今日はこちらの村に泊まる算段で?」
「ええ」
コックリ。
「よろしくお願い致してよろしいでしょうか?」
「歓迎させて貰いますよ」
「感謝です」
そう言ってフォトンが握手を求めた。
握手で返答する少女。
そして、
「……っ!?」
少女が目を見開いた。
「…………」
驚愕したのはこっちも同じだ。
動揺はしなかったけどね。
フォトンと握手した美少女が醜女に変わった。
愛らしい少女がブチャイク顔に為ればそら驚愕もする。
「?」
と戸惑いながらフォトンは握手していた手を引っ込める。
「何をしました!?」
醜女が悲鳴を上げた。
「握手ですが……」
他に何があろう?
「新緑の髪……セブンゾールのフォトン……?」
「ですよ?」
「なるほど……それで……」
「何かマズかったですか?」
「ええ、とても」
嘆息する醜女だった。
「ともあれ王都へと参りましょう。また洗礼を受けなば……」
洗礼?
そんな疑問を抱えると、
「疲れているので後日でいいでしょうか?」
フォトンが話を進めた。
元よりそのつもりではあったのだけど。
「ええ、ええ、歓待させて貰います」
そう言って醜女は自身の家に僕らを招待した。
「おぜぜは如何ほど?」
「必要ありませんよ。宿屋でもありませんし商売で接待するつもりはありません」
「ですか」
「では料理をまず出しますね」
そう言って少女は鶏を調達した。
羽をむしって内臓を取り出し血抜きをして、鶏肉へと変化させる。
「器用なものだ」
素直にそう思う。
出てきたのは麦飯の親子丼。
「どうぞお召し上がりください」
「いただきます」
そしてウーニャーを除く全員での夕餉が開始された。
「フォトン様たちはどのような理由で渚の国に?」
「観光旅行ですよ」
「観光……」
顔をしかめる醜女だった。
「では渚の国に来たのは偶然……と?」
渚の国。
おそらくこの国の名だろう。
言う割に海に接している国境は狭いように思えるのだけど。
「何も知らずにこの国へ?」
「むしろ何かあるんですか?」
これはツナデ。
スッと剣呑に双眸が細く鋭くなった。
「いえ……。別に特筆すべき事は……」
「…………」
納得していないツナデ。
ちなみに僕もだ。
表情筋で嘘をついているのは見抜ける。
業腹な能力だけどこういう時は役に立つ。
「納得は出来ませんが了承しましょう」
そしてツナデは親子丼を頬張る。
しばしカチャカチャと食器の音が鳴る。
「ところで」
とこれはフィリア。
「お風呂はあるのかな?」
「いえ。この村には……」
「そ」
むしゃむしゃ。
「ではお姉さんの出番ね」
よろしくお願いします。