渚の国01
「うーん。陸地」
僕は背伸びした。
「それでは俺らは此処で……」
僕らを船で送ってくれた奴隷商船の暫定船長は頭を下げた。
「ありがとね」
「恐縮です」
その瞳には怯えの色があった。
まぁ戦力差が桁違いだ。
畏怖を覚えるのも仕方がない。
「いい仕事だったよ。感謝」
「では我々は行きますので……」
「ん。再度になるけどありがと」
そして船は出航した。
それを見送ってしばし。
「ウーニャー!」
僕の頭に乗っかっているウーニャーが尻尾ペシペシ。
まぁこれもいつも通り。
僕は、
「木を以て命ず。薬効煙」
と薬効煙を具現。
口にくわえて、
「火を以て命ず。ファイヤー」
と火をおこす。
火を点けた薬効煙をスーッと吸って紫煙をフーッと吐く。
「パパの匂いだ……」
僕の頭に乗ってる手前、ウーニャーは副流煙をもろに吸う事になる。
ま、別に薬害があるわけでも無いんだけど。
「…………」
プカプカ。
ああ。
落ち着く。
「で」
と本題。
「フォトン?」
「何でしょう?」
「此処何処?」
「さて」
肩をすくめられた。
「知らないの?」
「光の国で得た知識は夷の国までですので」
「ふむ」
「お役に立てずに申し訳ありません」
「気にしない気にしない」
クシャクシャと僕はフォトンの髪を撫でた。
「あう」
ポーッとフォトンは呆けた。
僕は視線をフィリアにやる。
「フィリアは知ってる?」
「お姉さんも知らないわね」
なはは。
そう笑うフィリアだった。
いいんだけどさ。
「ま、別段怪物がそうそう居るとは……あー……いるか……」
堕天使。
ならびに亜人。
神デミウルゴスの御使い。
閑話休題。
とりあえず大陸から南に離れた島国……即ち夷の国から船で送られたのだから大陸の南にいるのは間違いない。
「なら北に向かって歩こっか」
「異議無し」
全員の総論だった。
そんなわけで踏み固められた道を北へと辿る。
道がある以上文化もあるわけで、
「そこまで悲観する事でも無いかな?」
そんな風に思う。
とまれ、
「村にでも着ければいいんだけど……」
レミングの大行進……とは違うか。
まぁ野宿しても問題は無いんだけど。
で、結局のところ、
「こうなるか」
野宿する事になった。
フォトンの四次元ポケットから黒パンと干し肉を取り出して焼いて食べる。
次は入浴および洗濯。
これはフィリアの出番だ。
フィリアは直方体の水の塊を生み出す。
それも適温の。
これが風呂代わりだ。
地面に具現した直方体の水の塊に水着姿で飛び込む。
ザプンと水が跳ねた。
全員が全員水着姿でお湯の中に入る。
そして脱ぎ捨てた衣服はフィリアのトライデントの創り出した球体の水の乱気流にて汚れを落としている。
「あー……生き返る……」
ぼんやり呟きながら僕はお湯を堪能した。
「フィリアが居て良かったですね」
「ですね」
「だね」
「ウーニャー!」
そんな言葉に、
「あはは。お姉さん照れるな」
フィリアは苦笑していた。
「ふい」
僕は風呂に浸かって一息。
少なくとも入浴と洗濯には事欠かないのは立証されている。
フィリアのトライデントによって。