夷の国30
「私とラセンが同一の姿を……?」
フォトンの声は擦れていた。
「然り」
遠慮なくイセイ王は頷いた。
「フォトンとラセンは全く同一の姿をしている。ここまでくれば双子どころかコピーと言っても過言ではない」
「そんなはずありません」
フォトンの抗弁。
「ラセンは男性の魔術師で……!」
「だからそれはエルフ魔術による錯覚であろう?」
「……っ!」
絶句するフォトン。
「何やら話に靄がかかり始めたね」
僕はコーヒーをすする。
「ウーニャー?」
ウーニャーは平常運転。
「でも何故それを貴女が知っているのです?」
「エルフ魔術を操る者にエルフ魔術は通じない」
道理だ。
「ラセンの変化を見抜けるのは夷の国で吾輩だけよ。故に吾輩はラセンのエルフ魔術を看破してその真たる姿を見て取った」
「…………」
ふむ。
僕は考える。
フォトンの師匠。
同一能力たる無限復元。
殺戮と救済の両面性。
エルフ魔術までもを技術として昇華する存在。
そして何よりフォトンと全き同じ姿。
ヒントは無数にある。
なんとなく予想はついてきたね。
ラセンと云う存在にさ。
「ラセンがエルフ魔術を……?」
「信じられない」
というフォトン。
「そう言っておろう」
イセイ王に躊躇なぞ微塵も無い。
僕はコーヒーを飲んで、
「ホッ」
と吐息をつく。
「そんなわけでフォトンはラセンを探しているんです」
「何のためにかや?」
「私の……」
とこれはフォトン。
「無限復元を解いてもらうために……!」
「便利でよかろう」
「死にたくても死ねない人間なぞ有り得てはいけません」
きっぱりとフォトン。
「ふぅむ……」
イセイ王は何かを考えるように天井に視線をやった。
「お主がそう言うならそうなのだろうか」
そして茶を飲む。
「イセイ陛下」
「なんぞや?」
「ラセンが何処に行ったかはわかりませんか?」
「無茶と云うものじゃて」
「ですか……」
しょんぼりするフォトンに、
「しかして目的は聞いた」
ばくだーんはつげーん。
「ラセンの目的……?」
「然り」
茶を飲んで、それから頷かれる。
「ラセンの目的とは?」
最重要事項だろう。
少なくともフォトンにとっては。
「剣の国を探すと言っていた」
さもあっさりと言ったイセイ王の言葉に、
「っ!」
フォトンとイナフとフィリアが絶句する。
はて?
剣の国?
それがどうしたというのだろう?
そんなことを言うと、
「剣の国は一種の理想郷なんです」
フォトンが講釈してくれた。
「理想郷?」
「然りです」
コックリ。
「この大陸のどこかにあると言われる国の名です。剣の国は一面荒野で……一般的な剣から魔剣や聖剣までもが地面に無数に突き刺さっていると言われています」
「その剣は使えるの?」
「はい。引き抜けばそれが自身の剣になると」
なんとなくUBWを髣髴とさせるね。
「中には神殺しの魔剣まであるとのこと」
「神殺しって言うと……」
「はい」
コックリ。
「大神デミウルゴスを殺すことの出来る魔剣まで存在すると言われています」
それはまた壮大で……。
となるとラセンの目的は……。
多少思案する僕だった。
「もしかして」
「しかしてまさか」
そんなアンビバレンツな思惑に囚われていた。