夷の国26
ドラゴンブレスで、その有効範囲の有象無象が灰燼と化した道を僕らは歩く。
さすがにここにいたって僕らに喧嘩を売ろうとする猛者はいなかった。
当たり前か。
仮に喧嘩を売ればその末路がどうなるものか。
十二分に理解できるのだから。
「ウーニャー!」
ウーニャーが僕の頭上で喜ぶ。
「パパの役に立った?」
「とても」
「ウーニャー!」
可愛いなぁ。
ともあれ障害物は無い。
至極道理。
あらゆる質量はレインボーブレスによって破却されたのだから。
一点から一点への最短距離を僕たちは歩く。
つまりブレイドファミリーの屋敷へ、だ。
ほどなくして着く。
屋敷の一部が欠損していた。
というか消失していた。
当然ウーニャーによるものだ。
「…………」
僕らはズンズンと屋敷の中に入る。
「てめぇら……!」
「舐めた真似してくれるじゃねえか……!」
「ぶっ殺すぞ……!」
脅しているつもりなのだろうけど、
「……どうも」
明らかにならず者どもは腰が引けていた。
僕はオーラを広げると、
「やれやれ」
複雑な印を結んで術名を発す。
「火遁の術」
燃焼の情報をならず者たちの脳に直接注射する。
「ぎ!」
それが言葉の初め。
そして、
「ぎあああああああああっ!」
錯覚とはいえ本物と見紛うばかりの熱情報にならず者たちは苦しみだした。
一人を除いて。
「え? は?」
パチパチと幻覚としての火の粉が飛び散り仲間が焼かれていく。
決着まで大した時間はいらなかった。
「さて」
全てが終わった後、
「ゴッドファーザーに会いたいんだけど案内してくれる?」
僕は一人無事なならず者にニコリと笑う。
おそらくその笑顔は死神の手招きに見えたことだろう。
知ったこっちゃないけどね。
「あれ?」
惚けてみせる。
「もしかしてファーザー……先のドラゴンブレスで消失した?」
「いや、そんなことはないが……」
どう対応していいのかわからないのだろう。
ならず者は腰が引けていた。
しょうがないと云えばしょうがない。
一直線に夷の国を撃ち貫いたドラゴンブレス。
一息にブレイドファミリーの構成員を焼いた祟り。
これで、
「怯えるな」
という方が無茶だ。
重ね重ね知ったこっちゃないんだけど。
「じゃあ案内してくれる?」
「俺を……傷つけないのか……?」
「案内させるために見逃したんだよ」
一人だけね。
「こっちだ」
そして一人無事なならず者は僕たちを連れてブレイドファミリーのゴッドファーザーの元へと案内するのだった。
荘厳な扉の前。
「俺はここまでだ。ゴッドファーザーとの面会はお前たちだけでやってくれ」
「ん。ありがと」
僕がお礼を云うと、
「……っ」
ならず者は逃げるように去っていった。
至極当然だ。
少なくともその威力に巻き込まれたくはないのだろう。
「ウーニャー……」
ウーニャーが僕の頭上で尻尾ペシペシ。
可愛い可愛い。
そして僕はオーラを展開して部屋の状況を察すると、
「失礼します」
と無遠慮に扉を開いた。
中は当然オーラで捉えた通り広い客間だ。
「ようこそいらっしゃいました」
広い客間のテーブルの……、
「…………」
その上座に座っている男が笑顔で出迎えてくれた。
「中々に荒々しい訪問ですね」
苦笑する男。
「あなたがブレイドファミリーのゴッドファーザー?」
問う僕に、
「ええ、そうですよ」
簡潔に肯定される。
「そか」
こっちも簡潔に納得する。
そして僕らは下座に座った。
僕がオーラを展開していることは少なくともヒロインズには認識できている。
で、ある以上不意打ち策謀等は意味を為さない。