夷の国25
「さて」
僕は気合を入れる。
「じゃ、ゴッドファーザーに会いに行こっか」
そしてその気合いを見せないまま気楽に云う。
「ですね」
「です」
「はいな」
「ウーニャー」
「いいわよ」
ヒロインズも同意してくれた。
と、
「うおおおおおおおおっ!」
と裂帛の気合いで襲い掛かってくるならず者一人。
狙いは僕。
獲物はナイフ。
まぁこうなるよね。
僕は自然に受け入れた。
ナイフは短刀に弾かれた。
イナフである。
僕はと云えば、
「木を以て命ず。薬効煙」
と薬効煙を生み出してくわえると、
「火を以て命ず。ファイヤー」
と薬効煙に火を点ける。
プカプカ。
ナイフを弾かれたならず者はキッとイナフを睨む。
「フィリア?」
僕はフィリアを呼ぶ。
「なぁにマサムネちゃん?」
「殺しちゃ駄目よ?」
「マサムネちゃんがそう言うならお姉さんは自重しましょ」
「イナフ」
「なぁにお兄ちゃん?」
「殺さず捕えて」
「そうしろって言うならするけどさ!」
そして風になるイナフ。
身体能力だけで云えば僕とツナデと同等ちょっと下。
少なくともチンピラ程度にどうにかできる戦力ではない。
決着はすぐだった。
ならず者のナイフを、身を低くして躱すと、
「しっ」
呼気一つ。
ならず者のアキレス腱を短刀で切り裂く。
ならず者は腱を切られてバランスを崩し、
「ぐ、ああああああああああっ!」
痛みに悶えた。
が、気にせず僕はならず者の顔面にヤクザキック。
「ぶぎゃ!」
潰されたカエルのような悲鳴を上げて表情を恐怖で彩るならず者。
が、そんな些事に付き合う必要を僕は認めていない。
フォトンの無限復元で治癒した後、ボッコボコにして戦意を失わせると、
「誰の命令で動いてるの?」
その行為の根幹を問うた。
「知らないのか?」
「何を?」
「お前ら。ブレイドファミリーに狙われてるぞ」
そんなところだろう。
やれやれ。
だいたいはわかった。
僕はならず者の首筋に手刀を埋め込んで気絶させる。
オーラの展開。
こちらに意識をやっている人間は察知出来たけど、
「このままじゃ埒が開かない」
と云うのが本音だ。
で、あるならば、
「ウーニャー」
僕はウーニャーの名を呼ぶ。
「ウーニャー?」
ウーニャーが答える。
「とりあえず牽制威力を見せつける必要があるよね」
「ウーニャー?」
わかっていないらしい。
「方角から言ってこっちか……」
僕は夷の国の中心から少し西寄りの方角を指差した。
「ウーニャー?」
どこまでもウーニャーはわかっていないらしい。
僕の後頭部を尻尾でペシペシ。
僕は指差した方角に向いて、
「ウーニャー。ドラゴンブレス」
と云う。
「っ!」
ヒロインたちが絶句する。
意図を察したのだろう。
知ったこっちゃないけどね。
「ウーニャー! ブレスの半径は?」
「十メートルくらいでいいんじゃない」
「ウーニャー!」
肯定してウーニャーは七色に光るドラゴンブレスを吐いた。
それは夷の国を一直線に凌辱して、塵芥へと帰せしめた。
真竜王のドラゴンブレスは五行属性および空間や時間までもを滅却する。
そして直線状に出来たブレスの傷跡は、ブレイドファミリーのゴッドファーザーの屋敷への一本道に相違なかったのだった。