夷の国22
色々と情報を聞いて回り、イセイ王が夷の国の中央にある屋敷に住んでいることがわかった。
ちなみに夷の国の三大勢力である「やの字」のファーザーたちも時にはその屋敷に住んでいるとのこと。
夷の国の王はマゾなのだろうか?
どうあっても縄張り争いをしている三大勢力のファーザーたちが仲良くテーブルを囲む姿が想像できないんだけど。
まぁ祟りの力を持っていれば支配することは可能なんだろうけど。
ちなみに今僕らは食堂に居ます。
お腹が空いたから。
島国と云うこともあって出てきた料理は海産物。
魚の干物。
海藻サラダ。
貝のスープ。
エトセトラエトセトラ。
炭水化物が足りない気がするけど、そもそもとして夷の国が流刑地であることが前提であるため貿易もあまり効果が無いのだろう。
全くないわけじゃなかろうけど。
モッシャモッシャと海藻サラダを食べる僕。
ワカメが美味しい。
ちなみにワカメは、
「侵略的外来種」
に分類されるらしい。
食用にするのは東アジアだけで他の国にしてみれば意味もなく増えるだけ増える迷惑極まりない代物だとか。
異世界にいるからもう関係ないっちゃないんだけど。
その異世界を巫女が創ったのだからやっぱりこっちの世界にもワカメがあって、増えるワカメと化しているのだろう。
僕は好きだから問題ないんだけど。
そんなわけで海の幸を堪能していると、
「…………」
ドタドタとならず者たちが僕らの食事をしている食堂に入ってきて、テラス席に座っている僕らを取り囲んだ。
一瞬で判断。
計二十一人。
「なめた真似してくれたな」
ならず者の一人(この集団の首魁なのだろう)が厳しい目つきで僕らを睨み付け脅迫してきた。
僕は貝のスープをズズと飲む。
美味しい。
それから魚の干物を箸でほじくり食べる。
箸という文化もこちらの世界に浸透している。
理由は、
「言わずもがな」
だけど。
ならず者が言う。
「落とし前つけさせてもらうぜ」
が、無視。
「すいません。牡蠣の刺身を追加で」
ウェイターにそんな注文。
少なくとも僕においてはやーさんに囲まれたところで気を負う必要はまったくもってありえない。
僕だけの話じゃないだろうけど。
「なめてんのか?」
ならず者たちの瞳が切れるように細められる。
「そんなつもりは毛頭」
僕は心底正直に語る。
「フィリア」
「はいはい?」
「やっちゃって」
「ですね」
フィリアは苦笑した。
綺麗な流水のような水色の髪が揺れる。
その手には海神ポセイドンが持つとされる三股の槍……トライデントが。
大陸を揺り動かす。
天に嵐を呼ぶ。
海を操り大地を没させる。
規格外の神器だ。
当然ならず者たちに抵抗出来ようはずもなく、
「ふ」
と吐息をついてフィリアがトライデントを使うと、
「……っ!」
負傷者が量産された。
水の属性をもつトライデントは水分を操る。
そして人体は水分の塊だ。
二十一名のならず者たちはトライデントの干渉によって水分を奪われ四肢を干物と化して倒れ伏した。
南無。
「ウーニャー!」
ウーニャーが吠える。
「無茶苦茶だよ!」
否定はしない。
そもそもにして五行である木火土金水の気の相性があるとしても赤竜王を弑した武器なのだから。
人間に抵抗出来得るキャパを軽く超えている。
僕とて抵抗は出来ないだろう。
まったくもって数少ないトライデントに勝てる存在がフォトンやウーニャーと云ったところか。
それほどの戦力なのである。
だからこそ引き連れているのだけど。
で、僕はといえば、
「うまうま」
牡蠣の刺身を食べるのだった。
海の幸はやっぱり胃に優しい。
それは日本人の業であるかもしれなかった。