夷の国21
「よう姉ちゃ――」
銃声。
「てめ――」
銃声。
「ぶっ殺――」
銃声。
「やろ――」
銃声。
「やっちま――」
銃声。
「調子に――」
銃声。
「火と金を以て命ず。装填」
こーすーもーがーんー。
「こんなことして――」
銃声。
「オレらに――」
銃声。
「組織が――」
銃声。
「喧嘩を――」
銃声。
「もうお前らは――」
銃声。
「ひい。助けて……!」
助命を懇願してくるならず者の一人に銃口を向けたまま、ツナデは魔術で銃弾を再装填する。
M1911ツナデカスタム。
ハンドキャノン。
コルトガバメントだ。
「たす……助け……!」
その銃口を向けられているならず者を羽虫でも見るように見据えて、
「抵抗の意思なし」
と判断するとツナデは懐に拳銃を収めた。
「とっととツナデたちの視界から消えなさい」
「ひぃ!」
そしてならず者たちは引き潮の様に消え去った。
「ウーニャー……」
ウーニャーは相変わらず僕の頭上に居て、
「不思議な武器だね」
そんな呟き。
尻尾ペシペシ。
「向こうの世界では時代遅れな銃ですけどね」
ツナデは飄々としている。
しかして、
「喧嘩売っちゃったね」
気負いなく僕は言う。
面倒事は嫌いだけど、ならず者たちの楽園に、
「美しい女性」
に定義できるフォトンとツナデとイナフとフィリアが大股に歩いていればそりゃ下劣な欲望の的になるわけで。
ウーニャーはドラゴンの姿をとっているので現時点においては勘定に入らないことを追記しておく。
さて、
「島国と言っても広いしなぁ」
僕は嘆息する。
ちなみに教会の神父さんに聞いた限りだと、夷の国は三つの勢力が縄張り争いしているらしい。
夷の国の王がいるのは絶対で、そに干渉しない限りにおいて秩序ある抗争をしているとのこと。
ブレイドファミリー。
アーチェリーファミリー。
ランスファミリー。
ちなみにツナデが喧嘩を売ったのはブレイドファミリーの末端構成員らしい。
とにかくガラが悪いらしく、
「絡まれる方が悪い」
という結論が出るほど好き勝手。
みかじめ料などと広言してブレイドファミリーの縄張りの人間は税を徴収されるということ。
まぁ結局人間の集団なんてものは何処に行っても根本は変わらないようだ。
巫女とて善人だけの世界を創りたかったわけでもないだろうから、それは別にいいんだけどさ。
「問題は……」
ブレイドファミリーの報復だ。
そんなことはヒロインズもとっくに了解しているだろう。
その上での凶行だろうから。
相手にもメンツはあるだろうから、
「というより」
見栄商売がマフィアの本質であるから、看板を傷つけられてそのまま放置すれば干上がってしまう。
大変だね。
心底そう思う。
何がって……、
「木を以て命ず。薬効煙」
名誉を守るために戦略級の戦力を相手取らなくてはならないブレイドファミリーの結末に……だ。
「火を以て命ず。ファイヤー」
薬効煙に火を点ける。
スーッと吸ってフーッと吐く。
プカプカ。
「ウーニャー。大丈夫なの?」
「負ける気はしないなぁ」
できれば波風立てたくないのが本音なのだけど、少なくともヒロインズを率いる限りにおいて夷の国でのこういった厄介事に絡まれることは……まぁ一方通行兼不条理ではあろうけど……覚悟していた。
真っ当な夷の国の民たちはブレイドファミリーに喧嘩を売った僕らに忌避するような視線をやるのだった。