夷の国19
決闘の後。
「勝っちゃい……ましたね……」
まぁね。
「ありがとう……ございます……」
いえいえ。
「それでも……」
いやいや。
「抱いて……いいよ……?」
きがむいたらねー。
「むぅ」
それはこっちのセリフだ。
「女の子が気安く純情を売らないの」
「マサムネになら……いいよ……?」
さいでっか。
「というか……マサムネ以外には……身持ちは固いよ……?」
光栄です。
そんなこんなでリリアをめぐった決闘には勝ったけど、それはリリアをより僕に惚れさせる結果を生み出した。
「リリアはマサムネの嫁」
と学院に宣言したようなものだ。
う~ん。
メランコリ~。
薬効煙をプカプカ。
「マサムネ様。粗茶にございます」
ウンディーネが紅茶を淹れてくれた。
場所はクランゼの研究室。
いるのは僕とウーニャーとリリアとクランゼとウンディーネ。
僕は灰皿に薬効煙をこすり付けて火を消すと、香り高い紅茶を楽しむ。
ウンディーネはリリアとクランゼにも紅茶を振る舞った。
聞くに王に献上される茶葉らしい。
バミューダ王への供物の一部を王に仕えるクランゼが良心的に譲り受けて、それを僕らが飲んでいるというわけ。
「ウーニャー!」
僕の頭に乗っかっているウーニャーが尻尾で僕の後頭部をペシペシ。
「いつの間にあんな魔術を!?」
「いつだっけか……」
本音だ。
少なくともそう昔のことではない。
水鏡の聖盾は、
「ベクトルを魔術で操れるか?」
という疑問を解消するために実験的に創った魔術だ。
そして成功した。
それ以上の代物ではなかったのだけど、
「こんなところで役に立つなんて思ってもみなかったよ」
そう言う。
というかそうとしか言えない。
紅茶を一口。
「マサムネ様」
これはクランゼ。
「何でっしゃろ?」
「クランゼの研究室に所属しませんか?」
「元来の根無し草なモノで」
やんわりと拒絶する。
「あなたがいればわたくしの研究室も確固たる地位を築けるのですが……」
「生憎と名誉や栄光には興味が無いんでね」
それはある意味僕の業だ。
自分が楽しめるならそれ以上は無い。
ま、
「…………」
それは口にはしないんだけど。
紅茶を一口。
「ウーニャー! パパ!」
尻尾ペシペシ。
「なぁに?」
紅茶を味わいながら問う。
「あんまり遅いとパパのヒロインたちが魔の国に攻め込んでくるよ!」
笑えね~。
本気であり得るから困る。
「もう行くのですか?」
「ええ」
というより、
「本来はリリアの顔を見に来ただけですからね」
そういうことだった。
言葉は苦笑と共に。
リリアをめぐっての決闘なぞ埒外のイベントだ。
結果としてリリアのお邪魔虫を撃退したのだから、
「それで良し」
とはするけどさ。
紅茶を飲んで、
「ふ」
と吐息をつく。
空になったティーカップをカチンと受け皿とぶつけて置くと、
「ウーニャー?」
とウーニャーに問う。
「なぁにパパ?」
「そろそろ行こっか」
「ウーニャー!」
尻尾ペシペシ。
「やっぱり……リリアを……連れて行っては……くれない……の……」
寂しそうにリリア。
もう……可愛いなぁ!
そんなリリアを抱きしめて、
「また来てあげるから。待ってて……ね?」
ギュッと力を込める。
ドキドキと高鳴るリリアの鼓動を肌身で感じる。
「はい……」
ん。
「いい子」
リリアをあやしてチュッと軽いキスをすると僕は空間破却を使った。