夷の国15
フレアパールネックレス。
その通りの魔術だ。
爆発する火球の首飾り。
パールネックレスと称する通り首飾りにも似た炎弾の群れ。
なるほど。
これならば大方の人間には後れを取るまい。
「どう……かな……?」
不安げにリリアが問うてきた。
「すごいと思うよ」
嘘偽りない僕の言葉だ。
「えへへぇ……」
照れ照れ。
リリアが照れる。
可愛い可愛い。
「これなら……マサムネの……足を……引っ張らない……と……思うん……だけど……どうかな……?」
「無理」
いっそさっぱりと否定する。
「まだ駄目……?」
「駄目だね」
いっそきっぱりと否定する。
「何で……?」
「世界宣言が長すぎる。意識も着いてきていない」
「あう……」
「先手必勝なら勝てるけど後手に回れば受け付けない」
「あう……」
「突発的な問題に対応できるとも思えない」
「あう……」
「それにクランゼの准教授なんでしょ?」
「あう……」
反論は無いようだった。
「でも……」
それでも、
「リリアは……マサムネと……一緒に……いたいよ……」
「大丈夫」
僕はリリアの頭部を抱きしめる。
「ふえ……?」
狼狽えるリリア。
「大丈夫だよ」
僕は言い聞かせる。
「僕がリリアを見捨てることはないから」
「そう……なの……?」
「そうなの」
ギュッと抱擁を強くする。
「だから安心して」
「出来ないよ……」
「じゃあ心配しないで」
「無理だよ……」
「そっか」
「マサムネ……」
「何?」
「抱いて……」
「まだ僕の恋愛事情に決着がついていないんだよ」
「でも……」
「ごめんね?」
「でも……後腐れなく……抱くだけなら……」
「リリアを都合の良い処女には出来ないよ」
「それは……マサムネ……らしいけど……」
困惑するようにリリア。
「僕には決着をつけなきゃならない慕情がある」
「あう……」
「だからそれまではリリアを抱けない」
「そう……」
寂しげにリリアは納得した。
抱けるものなら今すぐにでも抱きたい。
それだけの魅力がリリアにはある。
だけどもそれは不誠実で。
だけどもそれは無遠慮で。
だから僕はまだリリアを抱くわけにはいかない。
「童貞乙」
と言われれば反論できないけどね。
全てに決着をつけて、
「やれやれ……」
気が向いたらリリアを抱くと約束はしている。
が、それが何時になるのかは僕にもわからない。
リリアは可愛い。
それは確かだ。
リリアは美しい。
それは確かだ。
リリアは愛せる。
それも確かだ。
だからこそ、
「僕になんか囚われなくてもいい」
と思ってしまうのは傲慢だろうか?
でも、
「それでも」
僕は、
「ツナデとの関係を清算しないと」
と思ってしまう。
それを言うと、
「そう……」
と悲しげにリリアは同意する。
「ごめんね」
僕はギュッとリリアを抱きしめるのだった。
リリアの瞳から零れ落ちる真珠は値千金に思えた。
罪悪は僕にあるのだけど。