夷の国14
で、どうなったかと云えば、
「こっち……だよ……」
リリアの魔術を、
「見てみたい」
と言ったら修練場に連れて行かれた。
手を繋がれて。
衆人環視の視線が痛い。
どうやら(今更だけど)リリアは学院にて一定の評価を得ている魔術師と相成ったらしいことは見て取れた。
「リリア様……」
「リリア様だ」
「飛炎の魔術師……」
「飛炎様……」
尊敬と羨望の眼差しがリリアに注がれる。
もはや一角の魔術師と云うよりアイドルの域に達していた。
老若男女がリリアを見て尊崇する。
「飛炎っていうのは?」
「リリアの……二つ名……」
「火の属性だから?」
「うん……」
コックリ。
「リリアは……大威力長射程の……火炎魔術を……得意と……するから……いつのまにか……飛炎って……呼ばれるように……なっちゃった……」
「ふーん……」
「駄目……?」
「いいことじゃないの?」
「マサムネ……としては……?」
「リリアが大成してくれたことには素直に賛辞を送るよ」
「えへへ……」
やっぱり可愛いなこの子。
「ウーニャー!」
ウーニャーが憤激する。
「なにさ?」
「ウーニャーだって大威力長射程の魔術使えるよ!?」
「だろうね」
木火土金水光闇の複合属性にて出力されるウーニャーのレインボーブレスは何物をも消し去り地平線の彼方までその威力を轟かせる代物だ。
だけどそれは、
「ウーニャーがドラゴンだからでしょ?」
「ウーニャー……」
僕の頭上でウーニャーは困ってしまった。
知ったこっちゃないんだけど。
それより、
「リリアと手を繋いでるアイツは誰だ」
という視線が僕に刺さるのが痛かった。
ウーニャーが頭に乗っているのも拍車をかけているだろう。
ともあれ紅色のセーラーカラーを翻してリリアは僕を修練場へと案内するのだった。
一応は魔の国の王都とはいえ国際魔術学院はその危険性ゆえに実際の王都から何里か離れている。
魔術が使う者にとっては戦略兵器となるからだ。
当然大魔術ともなれば歩兵一個師団を吹っ飛ばす威力さえ持つ。
各国が兵士ではなく魔術師を育てるのに躍起になっている原因でもある。
デミウルゴスへの祈り。
そにデミウルゴスの答えて出力。
である以上、祈りこそが魔術の本質であって、
「人殺しに使うのは何だかなぁ」
というのが僕の意見だけど、
「魔術は戦力」
というのが皆々の意見でもある。
いいんだけどさ。
別に。
ともあれ修練場につく。
周囲には魔術を行使する学院生。
炎やら水やら風やらの魔術を行使していた。
そんな中に混ざってリリアは空間を一つ取る。
そして、
「見ててね……? マサムネ……」
か細く言う。
「見てるよ」
「うん……」
頷くとリリアは瞳を閉じた。
おそらく想像創造をしているのだろう。
それくらいは僕にもわかる。
瞑想が必要かと言われれば、
「ややもすれば要らないんじゃない?」
と僕は思うんだけどコンセントレーションに慣れてないと必要な儀式なのだろう。
自身の中に強いイメージを形作ると今度は世界宣言。
想像創造によって確固たる魔術のイメージを創りあげる。
そして世界宣言によってイメージした魔術の効果を高らかに歌い上げて大神デミウルゴスのリアクションを求める。
それが魔術の一連の流れだ。
「我は火を求める者……。我は炎を繰る者……。そは大火……。そは大炎……。なお神々の欲する輝かしき首飾り……。フレアパールネックレス……!」
世界にリリアの宣言が響く。
同時にリリアの周りには炎球が十つほど生まれる。
その一つ一つが人を焼き殺すほどの熱量を持つ。
その複数の炎球は螺旋を描いて修練場の目標に飛んで行き着弾と同時に爆発する。
爆発に次ぐ爆発。
修練場の的は跡形もなく焼き滅ぼされた。
熱量と閃光と爆音が周囲に響く。
有り得ない威力の魔術だった。
「…………」
僕は魔術で生み出した薬効煙に火を点けて煙を吸って吐き、
「規格外だね」
そんな言葉を漏らす。
「光栄です……」
リリアははにかんだ。
うん。
可愛い。