夷の国13
「リリアは元気?」
「ええ」
「そ。なら良かった」
「のでしょうか……」
奥歯に物の挟まったような言い方だった。
「何か問題が?」
「ある意味で」
クランゼは紅茶を一口。
僕も紅茶を一口。
「ウーニャー……」
ウーニャーが僕の頭の上で脱力する。
と、
「失礼……します……」
ノックと共に利休鼠色の声が扉の向こうから聞こえてきた。
「どうぞリリア」
「では……」
そして少女が入ってきた。
美少女だった。
利休鼠の髪と瞳。
顔のパーツは丹念に創られており奇跡的な配置を為されている。
その美貌は素朴ながら華やかなフォトンや端正にして美麗なツナデにも引けをとることもないだろう。
緑がかった灰色の瞳は眠たげに細められていたけど、
「……っ」
僕を見てその双眸を見開いた。
「久しぶり~」
僕はティーカップをカチンと受け皿とぶつけて鳴らすと手をヒラヒラと美少女に向けて振った。
「マサムネ……」
少女は、名をリリアと云う。
「マサムネ……!」
そしてリリアはこちらに向かって走り寄り、
「おっぷ……!」
僕目掛けてジャンピングハグを敢行した。
感激したのだろう。
是非も無し。
僕はなるたけリリアを傷つけない形で受け止める。
「マサムネ……マサムネ……マサムネだぁ……」
リリアは僕をよほど渇望していたのか、
「はいはい」
抱き付いて僕の胸板に頭をこすり付けていた。
僕はそんなリリアの頭を撫でる。
やっぱりリリアは可愛いなぁ。
「よしよし」
あやす。
「マサムネ……?」
「なにさ?」
「リリアに……会いに……来てくれたの……?」
「うん」
ニッコリほほ笑む。
「愛に来たの」
「ふえ……」
頬を染めるリリア。
可愛い可愛い。
「抱いて……くれる気に……なったの……?」
「それはまだ」
「あう……」
既にツナデがいるからね~。
外道っちゃ外道だけど。
そして、
「ほら、離れて」
「あう……」
僕はリリアを引きはがす。
名残惜しそうなリリアの表情。
だからなんだってわけでもないけど。
「ウンディーネ……」
「何でしょうかリリア様」
「リリアの……分の……紅茶も……」
「承りました」
一礼してウンディーネは紅茶を淹れるとリリアに差し出した。
「ありがとう……」
「恐縮です」
おや?
いきなり抱き付かれて確認が取れなかったけど、よく見るとリリアは短いながら赤色のマントを服の上から着ていた。
なんとなくセーラーカラーを彷彿とさせる。
そして服も私服ではなく格式ばった代物だ。
「その衣服はどしたの?」
「これ……ですか……? えへへ……」
何故照れる?
「いまやリリアは学院の財産とも言うべき魔術師です。制服は学院の優等生に送られる礼服。短いマントはクランゼ研究室の准教授として名刺代わりのようなものですよ」
クランゼが説明してくれた。
「優等生で准教授? すごいね」
「えへへぇ……」
照れ照れ。
照れるリリアは可愛かったけど、
「なるほど」
そういうことなら確かにそうなのだろう。
「いっぱい魔術覚えたの?」
「いっぱいって……ほどじゃない……けど……多少は……」
「やっぱり火炎魔術?」
「うん……。火の属性が……親和性が……高いみたい……」
なぁる。