夷の国12
空間破壊性結果論転移。
僕と僕の頭の上に乗っているウーニャーが空間を渡った。
一応ヒロインズには伝えてある。
そうでもなければオロオロするのは目に見えてるからね。
安心させるための通過儀礼。
さて、
「おや……。マサムネ様。ウーニャー陛下」
デミウルゴスへの祈りは無事届いたらしく、
「ども」
僕は無事目的地に着いたらしい。
魔の国。
その国際魔術学院。
魔術師を志す者の巣窟。
魔術師にとっての魔窟。
クランゼの研究室である。
燈色の髪の女性。
若いながらにその実力は本物で、国際魔術学院において教授の地位と自身の研究室を持っている英傑。
闇魔術である空間破却を使える。
それだけでも実力が窺える。
まぁその空間破却をあっさり使いこなした僕が言うと嫌味になるんだけど。
それでも木火土金水の基本属性の魔術より光と闇の特殊属性の魔術の方が扱いが難しいらしい。
何を以てそうなるのかはわからないけどね。
魔術は想像創造と世界宣言によって成り立つ。
つまり起こしたい現象を強くイメージして言葉にするってことだ。
言ってしまえばそれだけ。
ならばどこに魔術の属性による優劣があるのかが分からない。
遁術も非常にコンセントレーションを必要とするため、その応用として想像創造を行なうのは容易かったし、世界宣言は喋れれば問題無し。
であるため、
「魔術師が魔術を覚える苦労」
と云うものを僕は知らない。
その辺に幾つかの仮説が成り立つんだけど、
「…………」
まぁここで言うこともあるまい。
そんなわけで閑話休題。
「お久」
と僕はクランゼに手の平を見せた。
「ウーニャー」
とウーニャーが尻尾ペシペシ。
「お久しぶりでございます。マサムネ様。ウーニャー陛下」
教授の席から立ち上がり慇懃に一礼。
「止めて」
僕が困ってしまう。
「そういう線引きは好きじゃない」
「ウーニャー! ウーニャーも!」
「では」
そして納得するとクランゼは席に着いた。
僕もまたクランゼ研究室にあるソファに座った。
「マサムネ様……」
とこれはクランゼ……ではない。
水の妖精が呼びかけてきた。
ウンディーネ。
そう呼ばれる妖精だ。
本当に巫女はファンタジーが好きらしい。
きっとウンディーネだけじゃなくてサラマンダーとかシルフとかノームなどの妖精もいるに違いない。
クーシーやケットシーもいるだろう。
ビバ!
ファンタジー!
おかげで楽しんではいるけどさ。
またしても閑話休題。
「ウンディーネも久しぶり」
「光栄にございます」
水の妖精は優雅に一礼した。
体の全てが水で出来ているため一体どこで体を管轄するのか理解不能だけど、あるいはドールの云う、
「無形脳」
なんて奴なのかもしれない。
三度閑話休題。
「なぁに?」
「紅茶でよろしいでしょうか?」
「うん。お願い」
「ウーニャー陛下は如何いたしましょう?」
「ウーニャー! いらない!」
「ではそのように」
そしてウンディーネが紅茶を淹れてくれる。
お湯を常備しているのか。
あるいは自ら作り出しているのか。
あるいは魔術か。
他の要因かもしれないけど、
「粗茶ですが」
少なくとも最短でウンディーネは紅茶を淹れてくれた。
手際の良さも手伝っているのだろう。
「良い妖精ですね」
僕が賛辞すると、
「はい。わたくしの自慢です」
クランゼは苦笑した。
「畏れ多いことです」
ウンディーネが恐縮。
朱桜の妖精を見たこちら側としては人に尽くしてくれる妖精は新鮮だ。
まぁアレもアレで趣があったと云うことも出来はするけどね。
「ところで」
僕は今日の目的を聞くのだった。