夷の国11
次の日。
その昼。
僕らは教会で昼食をとった。
どうやら(当たり前だけど)教会はアンタッチャブルの様である。
そしてフォトンとツナデとイナフとフィリアは教会に保護されている子どもたちにトランプの遊び方を教授していた。
よほど面白いのだろう。
子どもたちは異世界の遊びにキャッキャと騒ぐ。
こうなるとテレビゲームも見せてやりたいけど……その場合の世界宣言は何の属性を指定すればいいのかしらん?
「そもそも電気が無いから無理だろ」
という常識論と、
「電池を魔術で生み出せばいいんじゃね?」
という無理筋が議論した結果、
「わざわざそこまでするほどでもない」
そんな結論に至った。
電池は多分「木」と「金」の属性指定で出来ようけども。
「ふむ」
唸った後、
「木を以て命ず。薬効煙」
魔術を行使する。
さらなる魔術。
「火を以て命ず。ファイヤー」
口にくわえた薬効煙に火を点けて、煙を大きく吸う。
「ふーっ……」
長く長く主流煙を吐いた。
と、
「マサムネ様」
と年を召した男の声が聞こえてきた。
「…………」
薬効煙を吸いながら声のした方へ振り返る。
教会の神父さんがいた。
いやまぁ確認せずとも気配で察してはいたんですけどね。
「…………」
プカプカ。
「これはマサムネ様とフォトン様とツナデ様でしょう?」
そう言って教会の礼拝堂に並べられている木製の席(僕もその一つに座っている)に僕らの手配書が揃えられた。
三人の名前と似顔絵と賞金とデッドオアアライブの文字が。
「…………」
黙して煙を吸う。
そして吐く。
「フォトン様ならともあれマサムネ様とツナデ様が同名別人ということは非常に確率が低いかと」
まぁね。
異世界の名前だしニャー。
巫女曰く極東の国ならあり得るらしいけど。
そういうところは巫女のインテリジェントデザインを強く意識させられる。
西洋と東洋。
特に日本人である巫女にとって日本に近しい国は存在させて当然なのだろう。
無意識下で作ったのだとしたら逸れ者だ。
とまれ、
「まぁそうなんですけどねー」
観念して僕は答えた。
西から順にサイドワインダーのようにクネクネと北や南を行ったり来たり。
そんな感じで大陸を回っているのである。
悪事千里を走るというけどこんなところにまで手配が回っていようとは。
「で? どうします?」
薬効煙の煙を吐きながらが僕は問う。
もしも実力行使なら考えざるを得ない。
チラリとだけ剣呑な光を瞳に映すと、
「ああ、警戒させてしまいましたね」
神父は笑った。
どうやら意図は読み取ってもらえたらしい。
「賞金目当てに襲い掛かるつもりはありませんよ」
「ウーニャー……」
僕じゃなくてウーニャーが答えた。
ちなみに言わずともわかるだろうけど僕の頭上に乗ってます。
尻尾ペシペシ。
「戦力も概算出来ましたし」
「勘所でしょ?」
「ええ、それを見極めなければ夷の国では生きていけませんので」
「それで?」
僕はプカプカと薬効煙を吸うと、意図の那辺を問う。
「確認したいだけ?」
「いえ、忠告です」
「何に対する?」
「あなた方が身を置かれている状況に対して」
「あらかたわかってはいるつもりだけど……」
「既にあなた方は夷の国の民に目を付けられています」
「賞金首だしね」
「外に出れば流血沙汰は避けられないでしょう」
「こっちが血を流す事ってあるのかな?」
「少なくとも襲った方が流血するでしょう?」
「そんなの自己責任でしょ」
「愛と徳を説く者としてはあまり歓迎すべき状況ではありません」
「こんな会話をしている間にも誰かが大陸のどこかで殺されているよ? 祈りを捧げなくていいの?」
「…………」
さすがに言葉に詰まったらしい。
「一日に十人殺したって一年で三千六百人ちょっとだ。それでも世界は廻るさ」
「ドライですね」
「大切なのは人命じゃなくて人名だと思っているからね」
「人名?」
「大切な人の名……それをこそ人は失って悲しむ。命なんて二の次だよ」
苦笑した後に薬効煙をスーッと吸って煙をフーッと吐くのだった。
ともあれ教会がアンタッチャブルである以上暇だ。
ウーニャー以外のヒロインもトランプに夢中だし。
ここが安全と云うなら寄り道も一興か。