夷の国10
「ちなみにフォトン様たちにおかれては何をしに夷の国まで?」
夜中。
「さぁ寝るぞ」
という時間に、四方山話だろう執行者が問うてきた。
「流刑に処されたわけではありませんよね?」
「観光旅行です」
これはフォトン。
「ウーニャー!」
これはウーニャー。
ちなみに人化バージョン。
虹色の髪に虹色の瞳。
着ているのは都合上買っておいた寝間着。
そしてウーニャーは僕の抱き枕だ。
ウーニャーもまんざらではないのでお互い様だろう。
フォトンとツナデとイナフとフィリアは、
「自分もマサムネの抱き枕になりたい」
と主張するけど知ったこっちゃないね。
閑話休題。
「観光旅行……ですか」
訝しげ……というより困惑に近い表情を執行者はする。
さもあらん。
夷の国を観光するなぞ火中の栗を拾うよりおバカな行動である。
わかってて来た僕らも何だかな。
「木を以て命ず。世界樹の実」
「魔術を見せて」
とせがむ子どもたちに僕が魔術を行使した。
そして具現化した世界樹の実をイナフが持っている短刀でシュルシュルと皮をむいて切り分け子どもたちに配る。
「すげぇ!」
「美味い!」
「おいしい!」
ならよかったよ。
僕は薬効煙に火を点けて煙を吸って吐く。
ポウッと薬効煙の先っぽが赤く光る。
こういうところはタバコと同じだ。
「それは麻薬ですか?」
執行者が危惧する。
「違います」
否定する。
ややも微妙なラインだけど面倒事は御免だ。
だからあえてキッパリ否定した。
「ただの精神安定剤ですよ」
こちらの言葉も多少語弊はあるけど間違いの指摘は執行者には出来ないだろう。
執行者は困惑する。
「観光するような土地でもないと思うのですが……」
まぁね。
「それに危ないですよ?」
まぁね。
「あなた方レベルの美貌ならばならず者に目をつけられますよ」
「既に遅し」
とこれはツナデ。
喧嘩を売った張本人であるから根拠全開だ。
僕は薬効煙をプカプカ。
「喧嘩を……売ったのですか……?」
目を細めて執行者。
「ありていに言えば」
ツナデは平常運転だ。
「…………」
僕はと云えば灰皿に薬効煙の吸殻を捨ててウーニャーを抱きしめて寝転がる。
「ウーニャー……」
ウーニャーも嬉しそうだ。
よかれよかれ。
「ならず者たちは執念深いですよ?」
執行者の有難い忠告に、
「まぁ問題はないでしょう」
ツナデは飄々と。
気持ちはわかる。
少なくともならず者たちに後れを取る気は全くない。
そも……そうでなければ夷の国になぞ来はしない。
一国を滅ぼせる戦力だからこそ僕らは遠慮無しに夷の国の地を踏んだのである。
説明するのは面倒だし、理解させるのはより面倒なんだけど。
「害する者は叩いて潰して粉にする」
が信条であるため遠慮も気負いも僕らには存在しえないだろう。
元より賞金首だ。
襲われることには慣れている。
その対処にも。
だからならず者たちの襲撃も僕らにとっては問題にならないのだ。
杞憂ともいう。
その辺の理解は執行者にはできないだろうけど。
「まぁ気にすることでもありませんよ」
フォトンが気楽にそう言った。
執行者は入れ歯がずれたような表情だ。
案じてくれているのはわかるけど、
「やっぱり杞憂だ」
というのが本音。
「パパ?」
「何? ウーニャー」
「ギュッてして?」
「はいはい」
ギュッとする。
そして、
「おやすみなさい」
と僕は目を閉じる。
抱いているウーニャーは暖かい。
心までポカポカする。
意識が落ちるまで数分と云ったところだ。
意識を緊張させたまま。
こういうところは業が深い。
今更だけどさ。