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夷の国08

「というわけで」


 これはフォトン。


「夷の国です」


 知ってる。


 時間は夕暮れ。


「食事処とか宿屋などはあるんでしょうか?」


 フォトンがクネリと小首をかしげた。


「たしかに」


 元は流刑地。


 夷の国と呼ばれるまでに秩序を構築したとはいえ犯罪者の最後の砦なのは間違いない。


 犯罪者や賞金首が逃げ込み、出ていく人間は奴隷として売買される者。


 そんな場所に観光者が来るはずもないだろう。


 必然、商売と云うものが成り立つのかも怪しい所だ。


 その辺を同じく夷の国の港に降り立った奴隷商船の船員に尋ねてみると、


「あー、無いな」


 いっそさっぱりと言われた。


「食事処は無いでもないが宿で稼げる国でもないしな」


 突撃隣の晩御飯。


 まさか民家に泊まるわけにもいかないし、


「野宿?」


 首を傾げる。


 今更だけど。


 これでもいろんな国をまわってきたのだ。


 街や村に辿り着けず野宿することは多々あった。


 ので抵抗はないけど、夷の国にいる限り毎日野宿と云うのもなぁ。


「娼館か教会にでも泊まればいいんじゃね?」


 それが船員さんの提案だった。


 たしかに奴隷制度がある以上、娼館があるのは道理だ。


 夷の国の……立場の弱い女性たちにしてみれば体を売るのは手っ取り早く金を稼げる職業だろう。


 ならば娼館が機能するのは当然で。


 となればベッド付きの部屋を保有する娼館があっても不自然じゃない。


「とりあえず飯が食いたいなら酒場に行け」


 なるほど。


 たしかに酒と食事は犯罪者とて必須事項だろう。


 そんなわけで船員の案内で酒場に向かう僕たちだった。


 時間が時間のため客は僕たち以外にはいない。


 好都合だ。


「らっしゃい」


 と歓迎してくれる酒場のマスターに、


「ども」


 と返す。


 それから僕たちは食事を頼んだ。


 値段は手頃。


 ちょっと意外だ。


「見ない顔だね。新人かい?」


「観光旅行ですよ」


 苦笑してしまう。


「こんな危ない国に?」


 狐につままれたような表情をするマスター。


「あんちゃんはともかく綺麗な女は下卑た男の情欲の的だぜ。今すぐにでも逃げることを勧めるね」


 ご忠告感謝。


「ま、大丈夫さ」


 気楽に僕は答えた。


 そして僕たちは出されたヅケ丼をもっしゃもっしゃと食べる。


 島国であるため漁業が盛んらしく夷の国で食べ物と云えば魚介類が主となる……とマスターに聞かされた。


 食べながらマスターに尋ねる。


「この辺りに教会ってある?」


「そりゃあるが……」


 意味がわからないとマスター。


 気持ちはわかる。


 けれども宿屋が無い以上、娼館や教会くらいしか泊まるところが無いのもまた事実であって……。


 それから教会を紹介してもらって僕らは食事代を払った。


「ところで」


 とこれは僕。


 フォトンに問う。


 頭上のウーニャーが尻尾でペシペシ。


「何でしょうマサムネ様?」


「夷の国に教会って大丈夫なの?」


「さあ……」


 わからないとフォトン。


 うーん。


 不安。


 巫女の言葉を信ずるならば僕とツナデを例外として全ての人間が神デミウルゴスを信仰しているらしい。


 とはいえ宗教とは道徳を求めるモノである。


 犯罪者の吹き溜まりである夷の国で教会は成り立つのだろうか?


 疑問ではあったけどマスターに紹介された教会に行く以外の選択肢もないわけで。


 娼館に泊まってもいいけどね。


 そんなこんなで頭にウーニャーを乗せて、フォトンとツナデとイナフとフィリアを連れて歩く僕は軍隊蟻の進行ルートにある蜂蜜も同然なわけで。


「…………」


 ならず者たちに取り囲まれたのだった。


「やれやれ」


 抵抗するに吝かではない。


 が、面倒事には違いない。


 その辺り僕らに狙いをつけているならず者たちはどう思ってるんだろうね?


「殺されたくなけりゃ……」


 と脅しをかけた時点で趨勢は決した。


 ツナデのハンドキャノンが火を噴く。


 絡んできたならず者の集団は負傷者へと相成り、怯えるように注目していた衆人環視は不可解な視線をこちらにやる。


「ま、狼煙としては十分か」


 そう嘯いて僕はクインテットを連れて夷の国の教会に向かうのだった。


 泊めてくれるといいんだけど……。


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