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夷の国06

「ウーニャー」


 ウーニャーが呟く。


 僕は薬効煙をプカプカ。


 船は船主を失脚しながらも問題なく夷の国へとヨーソロー。


 で、その間やることもなく僕は船釣りをしていた。


 船員の反発は無かった。


 遁術による制裁を怯えてのこともあるけれど、そうでなくとも船主一人不能になったくらいで不都合が生じる船員の能力なら僕たちに出会う前にこの船は難破している。


 命令系統の実質は副船長に移され、僕たちは航海を続けた。


 ヨーソロー。


 副船長はさすがに意味不明な呪術(遁術のことである)に怯え、僕たちに一切無礼を働かない。


 都合がいいと言えば都合がいい。


 ので、


「…………」


 薬効煙を吸いながら僕は船から釣り糸を垂らしているというわけだ。


 頭にウーニャーを乗っけて。


 ウーニャーもウーニャーでやることもないから僕の頭の上でボーっとして、ときおりペシペシと尻尾で僕の後頭部を叩く。


 いつも通りだ。


 ちなみにフォトンとツナデとイナフとフィリアは船員たちに熱烈な求愛……というよりナンパを受けていた。


 しょうがあるまい。


 一人も欠けずに一級の美少女だ。


 年齢的な問題でフィリアを含んでいいのかはまた後の議論としても、ともあれカルテットは美しい。


 まして船員たちは奴隷商人。


 どうしても下卑た感情を抑えられるはずもなく。


 一度なぞ無理矢理手籠め(重複表現だろうか?)にしようとして返り討ちにあった船員まで出た。


 そのかいあって強硬に凶行に出ようという猛者はいなくなったけど、あの手この手で言い寄る人間は後を絶たない。


 気持ちはわからんでもない。


 垂涎の的だろう。


 だがどれほどの魅力的な条件だろうと恐ろしい恫喝だろうと流されるヒロインではあるまい。


 身持ちが固い。


 というかぶっちゃけ僕に心を預けている。


 ツナデに至っては人間とは自分と僕と十把一絡げにしか分けられていないはずだ。


 そこまで突き抜けてはいなくとも他のヒロインたちも似たようなものである。


 よ。


 色男。


 はい。


 その色男です。


 そんなわけで奴隷商船の船員たちは僕のヒロインたちに袖にされるのだった。


 ましてヒロインたちは戦略兵器……。


 ぶっちゃけ人間核爆弾だ。


 その威力は推して知るところとして……口説くにしてもご機嫌をうかがわなければならないのが道理である。


 少なくとも心許すことも後れをとることもあり得ないだろう。


 だから僕は安心している。


 気にかけていないという方が正確ではあろうけど、


 で、ウーニャーを定位置に乗っけて暇潰しに釣りをしているというわけだ。


「ウーニャー」


 尻尾ペシペシ。


「なぁにウーニャー?」


「釣れてるよ?」


 知ってる。


 クイと釣竿を引く。


 名も知らぬ魚が取れた。


 通りすがりの船員さんに聞いてみると食べられるらしい。


 ので、献上することにした。


 そしてまた餌を釣り針に付けて釣り糸を海に垂らす。


「ウーニャー。平和だね」


「ま~ね~」


 そもそも危機に陥ったことが無いのだけど。


 僕とフォトンの二人だけから始まった観光旅行もいつのまにやらコネクションや道連れが増えて面白いことになっている。


 有難いことだ。


「なら抱いてください」


 とツナデなら言うだろうけど童貞には辛い言葉です。


「あ」


 吸っている薬効煙がそろそろ限界だ。


 吸殻を海に捨てて新しい薬効煙を生み出す。


「木を以て命ず。薬効煙」


「火を以て命ず。ファイヤー」


 魔術によって。


 スーッと煙を吸ってフーッと吐く。


「それ麻薬か?」


 僕が釣りをしながら薬効煙を吸っていると、船員の一人が興味を持って問うてきた。


「…………」


 しばし言葉を選ぶのに苦労してしまった。


 精神的依存性はあるが麻薬ではない。


 薬草やハーブをブレンドした特有の薬だ。


 でも麻薬も薬と仰れば薬なわけで。


「精神安定剤だよ」


 無難な回答をしてみせた。


「一本貰えないか?」


「構やしないけどね」


 僕は魔術で薬効煙を箱ごと作り出すと船員に渡した。


 火を点けるのは自分でやってくれ。


「了解。ありがとよ」


 船員はそう言って火を求めて立ち去った。


 煙を吸って吐く。


 クイクイと釣竿が反応。


「ウーニャー!」


 尻尾ペシペシ。


「はいはい」


 僕は食いついた魚を釣り上げた。


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