夷の国05
船に乗って一日目。
日が沈んだ。
僕たちはトランプと引き換えに豪勢な料理を出された。
どうやら優れた顧客とみなされたらしい。
異存はないんだけども。
そんなこんなで夕餉を出されて、
「いただきます」
と一拍。
僕たちは食事を開始した。
ちなみにこの異世界は地球であることに変わりはなく、人類の営みと能力とを変質せしめた舞台である。
多世界解釈による別世界。
確率によって決定された別世界。
そして神がいて神の眼がいる。
神の眼……巫女の解釈によって成り立つ世界であるため神の扱いはどこかクライスト教っぽいけど本質的には儒教仏教圏だ。
よって食事の開始の合図も、
「いただきます」
に収束する。
別に文句をつけているわけじゃないんだけどね。
同じ日本人としては気持ちもわかる。
魚のひらき。
ライ麦パン。
コンソメスープに野菜サラダ。
食べたは良いけど……、
「…………」
僕は口にした瞬間沈黙を選んだ。
チラリとツナデを見る。
ツナデも、
「…………」
沈黙してこっちを見ていた。
どうやら思い過ごしじゃなかったらしい。
僕とツナデは意識を共有していた。
フォトンとイナフとフィリアは、
「うまうま」
と食事をとっている。
こちらに気付いた様子はない。
ウーニャー?
僕の頭の上。
そもそもドラゴンは食事を必要としない。
つまり現時点においてそこまで深刻な害はない。
ウーニャーは食事に手をつけていないから当然。
僕とツナデは元より毒に耐性があるため効果が無い。
不老不病不死のフォトンも影響は受けないだろう。
問題はイナフとフィリアだけどフォトンの無限復元を考慮に入れれば、こちらも問題といった問題はないだろう。
かといって見逃せるものでもないけどね。
「どうしたものか……」
思わず呟く。
「どうしたものでしょう……」
ツナデが呼応する。
食事には麻薬が混入していた。
アッパー系。
向精神薬ともいう。
薬毒の方は僕とツナデには不適応。
フォトンとウーニャーは論外。
イナフとフィリアが心配だけど中略。
「どういうつもり?」
僕は奴隷商船の船主に問うた。
「何がでしょう?」
飄々と船主。
「僕たちを麻薬漬けにして何かメリットがあるの?」
「……っ!」
見破られるとは思っていなかったらしい。
船主は絶句していた。
なめられたものだ。
…………。
当たり前か。
少年一人と女の子五人(若干異論を含む)が相手じゃね。
「何故それを?」
「一ミリグラムでも毒が入っていれば感知できるように育てられたからね」
本音だ。
忍びの基礎でもある。
それは加藤の直系であるツナデも同じだ。
「え?」
「はい?」
とイナフとフィリア。
まぁそこまでのスペックを君たちに求めてはいない。
「麻薬を食事に混入させて何がしたかったの?」
「何のことやら」
船主はすっ呆けた。
やれやれ。
僕は両手で印を組む。
そして術名。
「刃遁の術」
次の瞬間、
「……っ!」
衝撃を受けた船主がショックで気絶する。
神経に後遺症は残るだろうけど知ったこっちゃない。
「呪い……!」
他にも同席していた船員たちが驚愕する。
指摘するほど間違った解釈でもない。
不気味な技術と捉えられた方がこちらとしても有利だろう。
イナフとフィリアへの薬毒はフォトンの無限復元に任せるとして、
「じゃ。食事を再開しよっか」
麻薬入りの食事に手をつける僕たちだった。
ちなみに、
「ご馳走様」
美味しゅうございました。