夷の国02
ドラゴンは食事を必要としない。
それを大前提として、
「じゃあ何を以て生きているのか?」
という疑問が浮かび上がる。
ドラゴン形態なら良い。
いや、良くはないのだけど百歩譲って良いことにする。
けどドラゴンにはドラゴン魔術と云うものがある。
ドラゴンは想像創造や世界宣言を必要とせずとも魔術を構築し行使する御業を持っているという。
その一つとして人化がある。
つまりドラゴンは人に化けることが出来るのだ。
聞くにこれはドラゴンの生まれ持った能力らしい。
人とのコミュニケーションには便利だね。
人のまま死んだらどうなるんだろうね?
ともあれ、
「何だかなぁ……」
僕はすやすやとベッドに寝ている虹色のドラゴン……ウーニャーの頭部を優しくナデナデするのだった。
「何がでしょう?」
と聞いてきたのはツナデ。
ちなみに全員同室である。
一級ホテルを宿屋ととったためスペースは使って余りある。
全員で過ごせる部屋を用意してもらった。
閑話休題。
「ドラゴンって何なのかなぁ……と思ってね」
ウーニャーをナデナデ。
「巫女の空想の産物でしょう」
人間原理。
インテリジェントデザイン。
世界五分前仮説。
それらを理屈とした女子高生の空想の産物。
それは良い。
納得できるかは別として。
「でもさ」
僕は魔術で薬効煙を生み出すと同じく魔術で火を点ける。
プカプカ。
「人は燃料を摂取して酸素で燃やして生きてるよね?」
「ですね」
と納得したのはツナデのみ。
「?」
フォトンとイナフとフィリアは首を傾げた。
まぁ医術の発達していない時代の考証だ。
わからないのも無理はない。
「どういうことですか?」
フォトンが問う。
「食事と呼吸くらい知ってるでしょ?」
「それくらいは……」
「食事によって人は燃料を体内に保有する」
「はぁ」
「人は呼吸をすることで酸素を得ているよね?」
「酸素って何でしょう?」
「要するに火を燃やすために必要な気体のこと」
酸素についてくどくどと説明する気はない。
「つまり食事と云う燃料摂取と呼吸と云う酸化反応によって人は生きているわけだ」
ごり押し~。
「で、ある以上ウーニャーは食事をしないのにどうやって生きているのかなと思って」
「何故に今更?」
「だってウーニャー……フィリアもだけどオーラを感じ取れるようになったでしょ?」
「だよね」
これはフィリア。
これで僕とフォトンとツナデとイナフとウーニャーとフィリアの全員がオーラを感じ取れるようになった。
遁術はまだ早いだろうけどオーラを感じ取れるというだけで遁術に抵抗することが出来るのは利点だ。
ウーニャーのオーラの展開は直径で五里。
フィリアのオーラの展開は直径で一キロ。
なんだか僕のレゾンデートルがフォトンやウーニャーに切り崩されているような気がするのは気のせいか?
閑話休題。
「むにゃ……」
と眠るウーニャーをナデナデしながら、
「オーラの展開にはカロリーを消費する」
前提条件を口にする。
「ええ」
フィリアが同意してくれる。
「でもドラゴンはカロリーを……食事を摂取しなくとも生きていける」
「あ……」
どうやらやっと僕の疑問に気付いたようだ。
「そ」
僕は頷く。
「ウーニャーはオーラ展開のカロリーをどこから捻出しているかと思ってね」
「お兄様はどう思ってらっしゃるのです?」
「永久機関でも搭載してるんじゃないかと」
「永久機関って?」
「説明が面倒なのでパス」
「むぅ」
呻くイナフ。
「もしかしてウーニャーが早々と睡眠をとったのはオーラの展開が関係しているとマサムネちゃんは思ったの?」
「まぁ睡眠で消費したエネルギーを補給するならそれが一番合理的な解釈ではあろうけど……ね」
「う~……にゃ~……」
寝言を呟くウーニャー。
ドラゴンも夢を見るのだろうか?
ドラゴンは体内に魔術式を内包する存在と聞いている。
ならば第一種永久機関もその一つと捉えて不自然とは感じられない様に……僕には思えるのだった。
実際がどうかは知らないけどね。