形の国26
形の国の王城で一泊していくことになった。
豪華な食事を堪能し、風呂に入る。
ちなみに大浴場を男一人で使いました。
サービスシーンはありません。
というかコミュ障ぼっちのドール王が僕と一緒に風呂なんて入ったら卒倒するだろうこと間違いない。
そんなわけで男女別に入浴……という形に相成った。
で、寝間着に着替えて、タオルを首にかけて、宛がわれた寝室にておもちゃの使用人によって奉仕を受ける。
「今頃女子たちは姦しく風呂場で騒いでいるのかな?」
なんて思いながら紅茶を飲む。
うん。
いい香り。
元よりフォトンもツナデもイナフもウーニャーもフィリアも幸いなことに邪気が無い。
敵にまわせば戦慄するほど空恐ろしいけど、それはあくまでアクションに対するリアクションであり、ドール王には当てはまらない。
特にツナデとイナフにしてみれば他人の都合と割り切れないかもしれない。
血によって排斥されたハーフエルフたるイナフ。
排斥を受けていた僕の唯一の味方であるツナデが状況を解するに否は無いはずだ。
今頃キャッキャとヒロインたちが騒いで、
「あう……」
とドール王が戸惑っていることだろう。
そんな空想に苦笑しながら紅茶を飲んで時間を潰していると、コンコンと僕の個室の扉がノックされた。
「どうぞ」
警戒を以て答える僕。
僕たちは広い王城の個室をそれぞれ割り与えられていた。
で、ある以上ヒロインたちが夜這いに来た可能性も捨てきれないのだ。
警戒したのはそういうこと。
「こ、こんばんは……です」
入ってきたのはドール王と、
「ウーニャー!」
ウーニャーだった。
ウーニャーはいつも僕にするように、今はドール王の頭の上に乗っかっていた。
二人ともホカホカと湯気を立てている。
ドール王の寝間着姿といい風呂から上がったばかりなのだろう。
「久しぶりに人と交わってどうだった?」
「緊張しました」
清々しいね君は。
「ウーニャー! でも満更でもなさそうだったよ?」
ウーニャーはドール王の頭上でドール王の後頭部をペシペシ。
「い、良い人たちと旅を……されているんですね」
「僕にはもったいないほどね」
苦笑する他ない。
「ウーニャーに懐かれたってことは王様も良い人の証拠だよ」
「ウーニャー! 人化してないウーニャーなら話しててもあがらないんだって!」
あ、そういうカラクリ。
「ともあれ座りなよ」
僕は空いているティーテーブルの席を指し、呼び鈴を鳴らす。
おもちゃの使用人が紅茶を二人分用意して一礼……去っていった。
「みんな良い人……です。く、口下手の私を……上手くフォローしてくださって」
「会話に困ることはなかったでしょ?」
「はい」
「ところで聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「?」
「まぁそうなるよね。君の変換したおもちゃたちなんだけどさ」
「はあ」
「物理攻撃が効くし痛がるのに遁術……エルフ魔術が効かないのは何で? 脳は持ってないのに思考および認識できるっていうのがよくわかんないんだけどさ」
「の、脳は持ってますよ?」
「おもちゃなのに?」
「私は……無形脳って呼んでますけど」
無形脳。
なんじゃらほい?
「え、ええと……その……質量に依らない脳機能……です。い、いわゆる一つの……錯覚を利用しているんですけど……外界の刺激を検索確定して無形脳に転送……そのリアクションを感覚刺激として返すつくりになっています」
「なぁる」
道理で。
物理的な脳を持たない以上、遁術は適用されない。
しかして脳機能そのものは持っているから外部刺激の痛みや熱は感覚質が捉えると……つまりそういうわけか。
本当になんだかなぁ。
最近遁術いいとこなしだね。
いいんだけどさ別に。
「あ、あの……」
顔を風呂上がりの火照りとは別に真っ赤にしながらドール王は僕を見る。
「交合はしないよ?」
「あ、あう。違います……」
「冗談」
「そ、それはそれで……」
どうやら慕情とまではいかないものの、ちょっと高度な好意くらいは持ってくれているらしい。
「で、何?」
「う、ウーニャー様を……今晩お借りしてよろしいですか?」
ドール王の目は真剣だった。
ドラゴンは人じゃないから気楽に語り合える。
故に一緒に寝たい、とそういうわけらしい。
「構わないよ」
「ウーニャー!」
ウーニャーにも否やは無いようだ。
「ほ、本当ですか……!」
「うん。どうぞ持ってっちゃってください。ウーニャー? 粗相のないようにね」
「ウーニャー!」
「と、友達ですから……粗相なんて……」
はにかむドール王はとても可愛らしかった。
うーん。
抱きしめたい。