形の国25
形の国のドール陛下は告白した。
「私はコミュ障なんです……」
……………………はい?
狼狽えたのは僕だけではなかった。
フォトンは眉をひそめ、ツナデは相変わらずだけど、イナフが紅茶を飲もうとしたまま一時停止し、ウーニャーは頭上にいるため確認できず、フィリアが困惑していた。
「というか……」
コミュ障って。
そう言えば今を時めく女子高生が造ったファンシー世界だっけ?
文化言語に登録されていてもおかしくはない……のかな?
深く考えたら負けな気がするけど。
「ウーニャー。コミュ障?」
さすがにウーニャーは知らんか。
「コミュニケーション障害の略。他者とうまく付き合えない症状だね」
「ウーニャー……」
納得したのかしてないのか。
それを確認するすべはない。
僕は紅茶を飲む。
「ひ……人と会話するのが苦手でして……」
「あー……」
だいたいわかった。
僕は紅茶をグイと飲み干すと、想像創造、後の世界宣言。
「木を以て命ず。薬効煙」
さらに想像創造、後の世界宣言。
「火を以て命ず。ファイヤー」
くわえた薬効煙に火を点ける。
煙をスーッと吸ってフーッと吐き、
「それで城に人間がいないわけだ」
納得した。
「お兄ちゃん……どゆこと?」
イナフはわからなかったらしい。
ウーニャーもそうだろう。
フォトンとツナデとフィリアは察しているらしかった。
「つまり人間と応対できないから、人間をおもちゃや人形に変換していた……と。多分そんなところじゃない?」
「ああ、なるほど」
「ウーニャー」
「お、お恥ずかしい……」
照れ照れ。
赤面するドール王。
桃色の髪の美少女王。
可愛いなぁ。
抱きしめたい。
「わ、私は……ぼっちでした……から」
「ぼっち」
とこれはツナデ。
うん。
妹よ。
言いたいことはわからなんでもない。
プカプカ。
「だから、人を別の何かに変える魔術と……親和性が高くて……」
「死の回避性を強調して、同意者を募ったってこと?」
「はい……」
照れ照れ。
「一般ピーポーと……話すのは……今もですけど……辛いです」
「……うーん」
残念。
何がって……そりゃまぁ国の成り立ちが。
まさかここまで大がかりなシステムの根幹が、ぼっちのコミュ障に支えられていようとは……。
目から汗が止まりません。
「そんなわけで……」
俯いたまま赤面してドール王は続ける。
「私を頼ってくれた人を助ければ仲良くなれるし……おもちゃになったらあがらないし……一石二鳥だったんです」
胸に衝くものがあるね。
あるいはそれは同情かもしれなかった。
僕も基準世界ではツナデがいなければぼっちだったから。
学校の休み時間のプレッシャーは今でもたまに夢に見る。
誰と話すでもなく情報端末を弄るか読書をするか他にないぼっちの宿業。
今でこそリア充だけど、過去は僕も酷かった。
教師からも忌避されてたしね。
そんな僕が心の傷をほじくっている間にもドール王は一呼吸一呼吸ごとに言葉を紡ぐ。
「そ、そんなわけで……私の友達を奪わないでほしいのです」
無限復元か……。
たしかに、そういう考え方もある。
コミュ障ぼっちのドール王。
そとコミュニケーションするためのおもちゃ変換。
与えられるは安寧と不死。
おもちゃになった人間はドール王に感謝し仲良くなってくれる。
それに対するアンチテーゼのようなものだろう。
無限復元ってのはさ。
「わ、私は友達が減ると寂しい……んです」
「そ……そうですか」
あまりの悲哀さに冷や汗を流すフォトンだった。
対処に困っているのだろう。
唇の端から頬にかけて引き攣っていた。
どちらともの心理は読めるけど、正直なところ僕自身の本音で言えばどっちかってーとドール王寄りである。
こんな可愛い女の子がぼっちでコミュ障。
涙無しには語れない映画化決定ストーリー。
僕は吸い終わった薬効煙を受け皿に置くと、ポンとドール王の肩に片手を乗せて、逆の手でサムズアップ。
「僕らが友達になるよ」
他に言うべきことがあろうか。
いやない!