形の国21
引き続き形の国の王都。
散発的に人やおもちゃたちが襲ってくる。
曰く、
「秩序を乱す者め」
と。
あながち間違っているわけでもないけどこっちから喧嘩を売っているわけではない。
まして王都の軍隊は動いていないのだ。
オーラで確認済みである。
なので襲ってくるのはトーシロさん。
正直脅威とさえ言えない。
そして不思議なことながらおもちゃたちは遁術には痛痒を覚えないのに、僕の投げるクナイやツナデの銃撃……イナフの短刀による斬撃やフィリアのトライデントには反応するのだった。
いやはや。
……どういう理屈よ?
筋道は分からないけど物理的な攻撃が効くことは十二分に理解した。
そんなわけで対応はツナデとイナフとフィリアに任せる。
フォトンとウーニャー?
まぁ王都ごと生けとして生ける者を鏖殺しようというのならそれもいいけどね。
周囲の視線から覚える感情は恐怖と忌避。
何にもまして意味不明なのだろう。
否定材料は残念ながら無いのだけど。
「こんなんでドール王が謁見してくれるかね?」
「まぁツナデならありえませんが……」
ですよねー。
結局のところ、
「専守防衛に徹する」
他ないか。
僕は左手に薬効煙を作り口にくわえて火を点ける。
プカプカ。
ああ、落ち着く。
さて、思考もクリアになったところで、
「このまま王城に向かう……でいいのかな?」
そんな問い。
「いいと思いますよ」
「ええ」
「他にないしね」
「ウーニャー!」
「賛成五ね」
クインテットも同意してくれた。
「じゃあそうしよっか」
クスリと笑う。
また一体おもちゃが僕らに近づく。
「対処しなきゃならんのか?」
と思っていたら、
「無限復元……セブンゾール……フォトン様ですか?」
もふもふのテディベアが僕たち……というか深緑の髪のフォトンに声をかけた。
オーラで確認している。
このテディベアは武装していない。
仮に襲うにしたってもふもふの手足がそれを阻むだろう。
つまり無害なのだ。
「たしかに私がフォトンですが……」
「やっぱり!」
恐怖でも忌避でもない。
態度から察するにそれは希望に見えた。
即ち肯定的な感情。
ツナデが銃を突きつけると、
「ひぃ!」
と怯える。
可愛いぬいぐるみである。
僕はそんなテディベアの首根っこを持ち上げてモフモフする。
「うん。可愛い」
「やめ……やめ……」
あうあうあ~と僕のモフモフを嫌がるぬいぐるみ。
可愛い可愛い。
「はいな」
肯定して僕はぬいぐるみを開放する。
「で、何の用でしょう?」
これはフォトン。
「フォトン様はあらゆる障害を無かったことにするんですよね?」
「少し違いますが……」
「というと?」
「私の無限復元は触れた相手の健全な状態の固有時間まで巻き戻す魔術です。である以上生まれつきの障害を持つ者には生まれる前の状態……消滅を与えます」
「でも健全に生きていて途中で障害を負った者には健全に戻すんでしょう?」
「それは……そうですけど……」
「そしておもちゃの呪いをも覆して健全な人間に戻すと?」
「ですね」
首肯するフォトン。
「ウーニャー?」
ウーニャーが疑問を呈す。
それは全員の心象だったろう。
「それで? 要件は?」
「僕を復元してください」
「おもちゃ……テディベアから人間に戻せと?」
「はい」
「否やはありませんが……」
フォトンの気持ちもわからないではない。
生きるのが辛くなったからおもちゃになったはずだ。
それを巻き戻せという。
「それであなたはいいのですか?」
「むしろ人間に戻れるなら御の字です」
「ならいいんですけど……」
フォトンはテディベアの頭をクシャクシャと撫でた。
そしてテディベアは一人の少年となった。
華奢ではあるが健全な人間へと戻ったのである。
「……っ!」
僕たちに突き刺さる王都の住人の視線の色が変わる。
何だかな……。