形の国20
検問は変化の術でスルー。
「ここが形の国の王都……」
大都市というのはオーラで把握している……というか王都は何度も体験しており特別形の国が大規模というわけではない……ため感じ入るには至らなかったけど、
「ふわぁ」
色が氾濫していた。
赤、青、黄、黒、白、燈、桃、エトセトラ。
材質はただの煉瓦なのだけどその上から塗られた色は無秩序を持ち混沌渦巻いていた。
「前衛芸術を都市にした」
とでも言えばいいのだろうか。
とにかく、
「ありったけの塗料を使いました」
とばかりに色が洪水のごとく視覚を押し流す。
見る人が見れば頭を痛めるようだ。
「ひどい都市ですね」
こめかみを押さえながらツナデ。
和を重んじるツナデは、
「見る人」
だったらしい。
書道や華道や水彩画を嗜むツナデにしてみれば前衛芸術は感覚の埒外だ。
ともあれ僕らは商人から報酬をもらうと馬車を降りた。
ちなみにどうせ意味が無いから変化の術は解いてある。
で、
「フォトン一行だ!」
速攻でバレた。
当たり前~。
ヴーンヴーンと警報が鳴った。
「無限復元確認! 繰り返す! 無限復元確認!」
ワッとざわめきが広がった。
「失礼な人たちですね……」
フォトンがムッとする。
「しょうがないんじゃないかな?」
イナフのフォロー。
「マサムネちゃん」
「何でしょう?」
「王都の軍隊が派遣されたらどうします?」
「柔軟な対応をすればいいよ」
暗に、
「逆らう奴は皆殺し一歩手前」
と言ったのだけどちゃんと伝わったらしい。
流れる血を想定したのだろうか。
舌なめずりするフィリアだった。
「ウーニャー! ウーニャーは必要?」
「好きにしていいよ。僕らを巻き込まない範囲でね」
とは言ってもウーニャーはいつも通り僕の頭上に位置取っているため僕が巻き込まれることは万に一つも無いわけだけど。
「ウーニャー」
尻尾で後頭部をペシペシと叩かれる。
これもいつも通り。
「お兄様……」
「この景観はツナデには辛いかな?」
「多少……ですけど」
「じゃあちょこっとサービス」
僕はツナデの左手を右手で捕まえて指を絡ませる。
いわゆる一つの恋人繋ぎ。
「あう……」
プシューと湯気立つツナデ。
可愛い可愛い。
「ズルいです!」
「ズルいよ!」
「ウーニャー!」
「マサムネちゃん?」
他のヒロインたちには不評だった。
知ったこっちゃござんせんが。
「こうしてれば少しは気が紛れるでしょ?」
「はい。ありがとうございますお兄様……」
ツナデははにかんだ。
眩暈。
それほど僕を頼ってくれるツナデが魅力的だった。
「さて、このままドール王に謁見する?」
そう全員に問おうとする前に、
「覚悟ぉぉぉぉぉぉ!」
おもちゃの一人が僕ら目掛けて襲い掛かってきた。
もっとも反応が早かったのはツナデ。
反射速度では僕に次ぐ第二位だ。
忍びとしての必須スキルとも言える。
空いてる右手で懐からコルトガバメントを取り出すとおもちゃ目掛けて銃弾を放つ。
ホローポイント弾。
そは確実に襲ってきたおもちゃを捉える。
とはいえ遁術が効かない以上おもちゃたちは哲学的ゾンビなのだろう。
なおかつ血肉で動いているわけでもないから銃弾程度で止まるとも思えない。
せいぜいハンドキャノン……M1911によって多少衝撃を覚える程度だ……などと思っていると、
「ぎあああああああああああっ!」
と銃弾を受けたおもちゃは痛がった。
「……え?」
ポカンとしてしまう。
僕だけじゃなく僕らのメンバー全員が。
「効くの? 銃弾が?」
おもちゃが痛みを覚える?
僕はオーラを展開すると印を結んで術名を発した。
「火遁の術」
幻覚の炎がおもちゃを襲う。
が、
「いてぇ……! いてぇ……! 何だその銃……!?」
おもちゃは銃痕を抑えて痛みを覚えるのに遁術の炎はまったく意識していなかった。
「…………」
どゆこと?
いやまぁ哲学的ゾンビが人間と同じ反応をするのは当然なんだけど……なら何で遁術は効かないの?