形の国19
そんなわけでショックで気絶した冒険者はギルドの店員に回収させて、僕らはフォトンとフィリアの持ってきたクエストを受けるのだった。
内容は単純。
もう何度目かわからないけど馬車の護衛。
王都まで。
報酬は金貨五枚。
どうやら裕福な商人の護衛らしかった。
少なくとも戦略的威力を持つ僕らにしてみれば渡りに船だ。
そんなわけで次の瞬間には車上の人となる。
普通裕福な商人は会員制の安定した能力を持つギルドに依頼するのが常套らしいけど、今回は例外らしい。
まして僕らの威力は証明済み。
契約はさっさと済まされた。
馬車は商人の商物と四人が寝転がってもなおスペースがある馬車だった。
御者は商人。
僕とツナデは時間制の交代をしながらオーラを展開する。
警戒のためだ。
そしてイナフがウーニャーとフィリアをオーラ酔いにさせるための訓練中。
「ウーニャー……」
「うえ……」
二人はしっかりと酔っていた。
良かれ良かれ。
元々フォトンをオーラ酔いさせるにあたって巻き込まれていた二人(一人と一匹?)なのだ。
多少の下地は出来ているととっていいだろう。
「うえ~……」
ウーニャーが突っ伏す。
ちなみに珍しく僕の頭上ではなく馬車の床に、である。
「あう~」
フィリアも同じらしい。
「気持ち悪い」
と言って豪奢で広い馬車に寝そべった。
僕は想像創造をすると、
「木を以て命ず。薬効煙」
と世界宣言。
薬効煙を生み出す。
再度想像創造。
および世界宣言。
「火を以て命ず。ファイヤー」
火が手の平に起こる。
薬効煙に火を点けて、スーッと吸ってフーッと吐く。
ああ、落ち着く。
薬効煙をプカプカと嗜みながら、
「どう?」
わかってはいるけども、
「オーラは感じ取れる?」
問うた。
「ウーニャー……なんとなく……」
「なんなのこの感覚は……」
「うんざりだ」
とウーニャーとフィリア。
「にゃはは」
僕は笑う。
薬効煙を吸って吐く。
「千里の道も一歩からってね」
「ウーニャー……」
「なのね……」
反論するのも億劫らしい。
僕は薬効煙をプカプカ。
フーッと煙を吐いて、
「ま、その内慣れるよ」
安直極まりない気休めを口にする。
「ウーニャー……」
「なのね……」
繰り言。
「はは」
僕は皮肉気に笑う。
そして薬効煙を吸って吐き、くわえていた薬効煙を馬車の外に放り出す。
印を結んで術名を発す。
「刃遁の術」
次の瞬間、僕のオーラが察知した野盗が過負荷を受けて気絶する。
僕は全力でオーラを広げる。
その直径は五里にもいたる。
野盗のねぐらを探ったけど大したものは保持していない。
「なんだかな」
野盗商売も大変なんだな……なんて。
零細の野盗にしてみれば進退窮まっていたのだろう。
金が無いのは体が無い事と同じ。
そういう意味ではここで倒れても同じことだろう。
決して自分の罪悪を無視したわけでもないけどね。
ともあれパカラパカラと馬車は進む。
「ウーニャー……」
「あう……」
ウーニャーとフィリアは河岸の売れ残りのごとくぐったりしていた。
南無八幡大菩薩。
「堅調ですなぁ」
雇い主がカラカラと笑う。
「一応仕事はしてるんですけどね」
僕は肩をすくめる。
「そうなんですか?」
そうなんです。
もっとも誇ることでもないけれども。
そんなわけで馬車は王都へ向かう。
フォトンの最優先事情だ。
ブラッディレインの足跡を探るためである。