形の国16
「さて」
薬効煙をプカプカ。
「どうする? 僕はぬいぐるみさんたちをモフりたいんだけど」
おもちゃやぬいぐるみが歩き回っているのだ。
気分はスペシャルパッケージツアー。
盛り上がってしょうがない。
「私は触れるわけにもいきませんしどうしようもないんですが……」
「ツナデはお兄様さえ傍にいれば別にどうでもいいことです」
「イナフもお兄ちゃんと一緒にぬいぐるみをモフりたいな」
「ウーニャー! ウーニャーをモフって!」
「お姉さんは別にいいかなぁ……」
そんなこんなで僕たち一同、街の入口から街道に出ると、
「あーっ!」
おもちゃの一人……あるいは一体?……から悲鳴が轟いた。
「何事か」
薬効煙を吸いながら声のした方を見れば、おもちゃは僕たちを指差していた。
「え……?」
まさか……。
「なんでフォトン一同が街にいるの! 門番は何をしていた!」
どうやらバレてしまっているらしい。
とすると遁術使いか。
「おもちゃにもオーラってあるのかな?」
煙を吐きながら考察する僕に、
「呑気なこと言ってる場合ですか!」
真っ当なフォトンの言。
「え?」
「フォトン一同?」
「変装?」
「マジか?」
《人間》たちもこっちを見ながらそう騒ぎ出した。
僕は薬効煙を地面に落として踏みにじると、
「…………」
複雑な印を結んで術名を発す。
「透遁の術」
オーラの範囲内の他者から姿を透明にする遁術である。
「消えた!?」
「嘘!?」
「魔術か!?」
「でも属性指定なんか……!」
人間たちは僕らが消失したことに驚いていた。
「ウーニャー……向こうからはこっちは見えないの?」
「そゆこと」
ちなみにウーニャーとフィリアには遁術を適応していないから僕らを見ることはできる。
本来遁術は逃げるための術。
そういう意味では変化の術といい透遁の術といい……これらが本来の遁術の使い方なのだった。
「安心して僕の頭の上に乗ってればいいよ」
僕は頭上のウーニャーの頭を撫でる。
「えへへぇ。パパ大好き」
「恐縮だね」
そんな三文芝居をしていると、
「ここで好き勝手はさせないぞ!」
「殺されたくないなら出ていけ!」
「遠慮する必要は無いからな!」
「エトセトラエトセトラ!」
そんなこんなで武装したおもちゃたちに囲まれるのだった。
「…………」
僕は薬効煙をプカプカ。
「えーと……」
言葉を探す。
長考。
「君たちには僕らが見えてるの?」
「当然であろう!」
……当然なんだ。
「オーラ使い?」
「オーラ? 何を言っている?」
あー……。
嫌な予感。
「即刻出ていけ! 特にセブンゾール!」
剣先を僕らに向けておもちゃの一人。
「お兄様」
「うん。僕もそう思った」
つまり、
「おもちゃはやはり脳を持っていないのでしょうか?」
「必然っちゃあ必然だね」
遁術は自身の脳から相手の脳に情報を直接注射する術だ。
脳を持っていないのなら通じる道理もない。
「試してみましょう」
ツナデがオーラを広げる。
そして印を結び術名を発す。
「火遁の術」
次の瞬間、炎が敵対するおもちゃたちを包んだ。
が、おもちゃたちはそれに痛痒を覚えないようだった。
なるほどね。
「なんか……桜の妖精といい……天使といい……此度のおもちゃたちといい……遁術の効かない相手がここ最近目立ってません?」
世の不条理を嘆いてみせる。
「ウーニャー」
「ウーニャー! 何かなパパ?」
「空に向かってドラゴンブレスを放って」
「ウーニャー」
言われた通りにウーニャーは万物を滅するドラゴンブレスを放つのだった。
天空を切り裂く金銀白黒赤青黄の虹色ブレス。
怖気づくは僕らを取り囲むおもちゃたち。
僕はニッコリ笑って言った。
「この都市くらい優に消し去れるんだけど……それでも敵対する?」
「ぐ……う……」
ぐうの音も出ないようだった。
元より威力で負ける面子じゃないのだ。
一抹の不憫さを感じ入ることは拭えないけどね。