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形の国13

 時間は夜。


 ただし村は明るかった。


 木製の家屋が燃えて炯々と村を闇から救っていた。


「グオオオオオオオオオオオオオッ!」


 青い巨人……トロールが暴れまわる。


「キシャアアアアアアアアアアアッ!」


 複数のゴブリンが村人や家畜を襲う。


「クハハハハハハハハハハハハハッ!」


 自我ある吸血鬼が自らの喉の渇きを村人の血で潤していた。


 人と異なる霊長でありながら、人と隔絶した霊長でもある。


 そしてその根幹となっているのは……、


「アレ……か」


 僕は夜空を見上げる。


 二体の天使が相克するように相争っていた。


 一方が天使。


 神の人類に対する「愛」を体現した使者。


 一方が堕天使。


 神の人類に対する「憎」を体現した使者。


 天使が勝てば人には祝福を、堕天使が勝てば人に殺戮を、それぞれ与える。


 何がややこしいって、堕天使とともに亜人が現れるのが一番ややこしい。


 天使は堕天使と戦っている故、その間は人間がフィジカルパワーで戦うしかないのが何とも言えない所である。


 デミウルゴスも何考えてんだかな。


 僕はオーラを広げた。


 ツナデとイナフではオーラが村全体を包めない。


 フォトンは僕と同等だけど遁術はまだ使えない。


 今のところフィリアが一番脈ありそうだけど、あくまでトライデントを操っているのは自意識だ。


 己の認識外に攻撃することはかなわない。


 なわけでヒロインたちが僕を起こしたのも当然と言えば当然。


 で僕はと言えば、


「これは酷いや……」


 オーラで村の状況を確認し、


「やれやれ」


 素早く複雑な印を両手で結んで術名を発す。


「刃遁の術」


 次の瞬間、亜人たちに斬撃の幻覚が襲い掛かった。


 体に傷をつけるなんてレベルじゃない。


 脳に直接情報を注射して体の内外全てをズタズタにする幻覚だ。


 認識の中のこととはいえ自意識においては、


「完全なる事実」


 には相違ない。


 当然肉体は傷つけられたと誤解した体を修復にかかる。


 そしてそれこそが致命的な事象を引き起こす。


 即ち超過回復。


 自己治癒能力が裏目に出るのである。


 脳も心臓も肺もボロボロになってトロールとゴブリンは死んだ。


 正確には殲滅した。


 僕が。


 ちなみに天使や堕天使はクオリアを持たないため遁術が通じない。


 やり様はあるんだけどね。


 亜人はほぼ殲滅したが、一匹だけ仕留めそこなった。


 吸血鬼だ。


 治癒による過負荷も不死身の吸血鬼には苦痛を与えるだけで終わりらしい。


 これについては僕の領域外の仕事だ。


「お姉さんに任せなさい」


 フィリアがそう言ってトライデントを繰る。


 空中に水を創ると、その水は螺旋を描き突出して鋭い槍の一閃となった。


 それが正確に吸血鬼の心臓を貫き……滅ぼす。


 あとは……、


「ウーニャー!」


 ウーニャーが僕の頭の上でそう唸って夜空に向けてレインボーブレスを吐いた。


 狙いは正確。


 威力は絶大。


 そして何より華麗だ。


 ウーニャーのドラゴンブレスは堕天使を滅し奉るのだった。


 かくして残った天使が夜の闇に呑まれない光を従えて地上に舞い降りる。


 壊された建物や襲われた人々や家畜を修復してのけると、慈愛の笑みを浮かべて天へと消えた。


 何がしたいんだろうね……神様って奴はさ……。


 巫女が言うには能動的な人間観察らしいけど。


 村は完全に元通りになり……というか元の状態を寝ていた僕は知らないんだけど……喝采が上がった。


 此度の結果の立役者として村の存在(人とはあえて呼ばない)が興奮し感謝してくれた。


「ありがとう」


「あなた方のおかげだ」


 などと。


 それは時に人であったり、


「人形が動いて喋ってる?」


 おもちゃであったりした。


 おもちゃの兵隊やぬいぐるみや人形が立って、歩き、手を差し出して、謝辞を述べてくれる。


 何度も言うがおもちゃが、である。


「おや、形の国に来るのは初めてかな? 最初は誰しも驚くものさ。『人形』から『人』の字を取って『形の国』。即ちおもちゃの国だよ」


 滔々とおもちゃの兵隊が語ってくれた。


「やっぱりドール王の魔術によって……?」


「そうとも。わしは余命幾ばくもなかったが、ドール陛下によっておもちゃに変えられたことで、こうやって生を謳歌できるわけだ。ははっ!」


 ちなみに快活に喋るおもちゃの兵隊はだいたい全長六十センチといったところである。


 必然見下ろしてしまうが、兵隊さんは気にしていないようだった。


 それから兵隊さんは僕との会話を終えるとカルテットの方に注目したらしい。


「可愛らしいお嬢さん方だ。君の連れかい? 憎らしいね」


「コナをかけたいならお好きにどうぞ」


 ぶっきらぼうに僕は言う。


 すると遠慮なくおもちゃの兵隊はカルテットに話しかける。


 そしてフォトンと握手して……、


「…………なっ」


 老人に変態した。


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