光の国11
「なーんでこうなるかな?」
その日の夜。
異世界に来て初めての夜。
僕とフォトンは一緒にお風呂に入っていた。
どうやらバーサスとなった騎士と魔術師はいつでも一緒にいなければいけないらしく風呂に入るのも一緒なのだそうだ。
詐欺の材料である。
深緑の髪を持つ美少女フォトンは……そのプロポーションも均整がとれていて一種の芸術のようだった。
ちなみに裸ではない。
僕もフォトンも水着を纏っていた。
こちらの世界にも水着はあるのか、と感心することしきりである。
ともあれ、
「いくらバーサスだからって女の子と一緒にお風呂に入るなんて不健全だよ」
ツナデとさえ一緒にお風呂は無いのに……。
「まぁまぁよいではないですか」
そう言ってフォトンは僕の腕に抱きついてくる。
ムニュウとフォトンの胸が僕の腕に押し付けられる。
あわわ……あわわ……。
と心中狼狽えながらも表情は冷静に。
忍の基本だ。
「で、何の用?」
僕は本題を切り出した。
サッとフォトンの表情が変わる。
「ん~……」
と呟いた後、
「マサムネ様は私が不老不病不死だと言ったら信じてくれますか?」
突拍子もない事を言い出した。
「不老不病不死って?」
「老いず、病まず、死なず、そんな体質のことです。この場合の病まずは傷つかないことを指します」
「不死身ってこと?」
「はい。それも無敵状態での」
「なるほど……とは言えないね」
「まぁ仮定の話だとでも思ってください」
「そうする」
「この能力は正確には無限復元と呼ばれている能力です。そしてこの無限復元は私と私の触れているものに作用します」
「どういうこと?」
「たとえば……」
と言ってフォトンは脱衣所へと消えると、僕のクナイを持って現れた。
そしてクナイを僕に渡す。
「なんなのさ?」
「その短刀で自身を傷つけてみてください」
「なにゆえ?」
「大丈夫です。たとえ致命傷であろうとも私が治してみせますから」
「魔術で?」
「魔術で」
コクリとフォトンは頷く。
「なら……」
と呟いて僕は手に持ったクナイで逆の手の平を刺し貫いた。
痛みが発生するが無視できるレベルだ。
拷問の訓練に比べればこんなものは痛みの内にも入らない。
「結構ザックリいきましたね」
「治してくれるんでしょ?」
「そうですけど……」
そう答えてフォトンは僕の傷に触れる。
次の瞬間、僕の手の平の傷はあっさりと完治した。
「……っ!」
さすがに驚愕せざるを得ない。
自身と自身に触れたモノに不老不病不死を与える魔術。
そんな不条理が許されるなんて僕の世界じゃあり得ないからだ。
「先の謁見でライト王が言いましたね」
何を?
「フォトンのバーサスは戦場に出なくていいと」
あー……そういえば。
「何でだと思います?」
「…………」
「この能力のせいですよ」
「不老不病不死?」
「はい」
フォトンは頷く。
同時にプルンと胸が揺れる。
六根清浄……六根清浄……。
性欲を抑える僕だった。
「ライト王は常に暗殺の危険に晒されています」
「ダモクレスの刃だね」
「だもくれす……?」
「いや、何でもない。話を続けて」
「つまりライト王は私を常に傍に置いておきたいんです」
「…………」
それは……つまり……。
「フォトンを保険として持っているということ?」
「然りです」
頷くフォトン。
「私の魔術は傷を治すだけじゃない。死者すら生き返らせることが出来ます。自身が不死であることと同時に……触れた相手にも不死を約束させるのです。無限復元……その真の能力ですね……」
「つまり死んだ人間に対しても正確な治癒能力を……無限復元を与えて生き返らせることができるってことなのかな?」
「然りです」
「ふえー……」
途方もない能力だ。
「つまりフォトンがいる限りライト王が死ぬことはないと?」
「そういうことですね。劣化した対象を魔術で上書きして新生させる。それが私の無限復元の真なる力ですから」
「なるほどね……」
フムンと僕は吐息をついた。