形の国12
「ウーニャー! パパ! 起きて!」
言われてうっすらと意識を起こす。
誰の声かは一耳瞭然。
というか名乗ってるし。
しかして眠い。
「寝かせて」
少なくとも今の僕は警戒任務についていない。
休むのも仕事の内だ。
というわけで、
「おやすみなさい」
また意識を手放そうとして、
「マサムネ様!」
「お兄様!」
「お兄ちゃん!」
「マサムネちゃん!」
ホモサピエンスカルテットが怒ったような声で僕を呼ぶ。
うー。
あー。
意識が……。
殺気でも感じればパッと目が覚めるんだけど、この五人の旅のお供は一人一人が戦術および戦略および政略的パワーを持つ。
特にフォトンとウーニャーとフィリアは国にすら勝てる逸材だ。
ツナデとイナフも一個師団相手には勝てるだろうけど。
そんなわけで、
「うー、あー」
僕としては安心して眠れるのだった。
が、
「起きてください!」
「起きて!」
「起きてよ!」
「起きないと悪戯しちゃうんだから」
カルテットは睡眠を許してはくれなかった。
なんだかなぁ。
「じゃあ誰か目覚めのキッスを……」
次の瞬間、
「……っ!」
「……っ!」
「……っ!」
「……っ!」
殺気が膨れ上がった。
それだけで意識が覚めて頭脳が冷める。
「ここはバーサスの魔術師である私が……」
「お兄様の第一の理解者であるツナデが……」
「お兄ちゃんラブなイナフが……」
「大人のキスを知るお姉さんが……」
互いにけん制し合いながら、視線だけで死闘を演じる。
…………。
まずったかな?
とっくに目は覚めた。
が、今更、
「もう目が覚めたからキスはいらない」
なんて言っても殺されるだけだろう。
「ウーニャー?」
頭上のウーニャーは状況をよく理解していないみたいだ。
まぁ零歳児だしね。
「パパ?」
上下逆の人化したウーニャーの顔が目と鼻の先にあった。
僕の頭の上に乗ったままのドラゴンから人化して人の形をとり、それ故に背丈が伸びて僕の頭上には入りきらない頭部がはみ出てしまった……ということなのだろう。
で上下逆さまで覗きこむように虹色の瞳が僕の顔を映す。
「キスすればいいの?」
「まぁ……ね」
最終的にはフォトンの無限復元があるから大事には至らないにしても、出来れば争ってほしくないのが僕の本音だ。
「原因を作ったのは誰だ?」
と問われれば返す言葉もないけどね。
「じゃあ、チュー」
人化したウーニャーが上下逆さまのまま自身の唇を僕の唇に重ねた。
「あーっ!」
「いーっ!」
「うーっ!」
「えーっ!」
「おお……」
最後のは僕の驚きである。
「ウーニャーの唇は甘かった?」
「蜜の味だね」
罪の味とも言う。
「マサムネ様! 私にも!」
「お兄様の浮気者! 懺悔を!」
「ウーニャーばっかりズルい! イナフも!」
「マサムネちゃん? お姉さんは駄目なの?」
却下で。
「何でです!」
こういうのは料理と同じだ。
同じ味を何度も連続して食べれば飽きがくる。
それは恋の味もキスの味も味と云う一点においては同じなのだ。
「ほどほどの恋が恋愛を長引かせるコツだ」
なんて言葉も僕とツナデの世界には格言として載っている。
一字一句には違いがあるものの。
「だから……諦めて……ね?」
「むう……」
カルテットは不満そうだった。
「パパ! もっかいチュー!」
「はいはい」
チュー。
「で? なんで僕を起こしたの?」
「村に着いたんですけど……そこが亜人に襲われてるんです!」
そういうことは先に言え。