形の国10
さて、今日もえっちらおっちら旅を続けた。
護衛する商人の管理物である狭い馬車の中では薬効煙が吸えないのが不満だったけど……ま……別に無くて困る物でもない。
天気は快晴。
僕らは……正確には僕とかしまし娘は順番にオーラを広げ警戒していた。
フォトンはまだ遁術を扱うのは無理だ。
が、僕とツナデとイナフは扱える。
で、圏内に入った危険物を遁術で処理するのも一苦労だった。
一番時間を割いてるのは僕のオーラである。
もとより凡人より優れた達人の……その三倍近い威力を出せる体の構造を持っている。
別口で言えば燃費が良い。
全力の五里の直径でやっと人並だ。
まして周囲を警戒するだけならそんな距離を感知しても無駄なだけである。
そんなわけで手加減することができ、抜群の燃費で周囲を警戒できるのだった。
まぁ仮に腹が減っても世界樹の実があるから大丈夫なんだけど。
旅は順調に進んだ。
時折山賊を感知したけど遁術によって薙ぎ払われる。
その後に僕が広範囲に山賊の根城を発見。
財産の接収を行なう。
金は天下の回り持ちだ。
資本主義なら一方通行だけど、この世界はまだ経済に革命は起きていないだろう。
信用創造や利回りなんて概念があれば僕とツナデの捕殺の賞金が金貨二十枚で済むはずがないのである。
元より巫女の生み出した世界であるから、その辺は曖昧なのだろうけど。
とまれ、税金として納めていない山賊の財産なら接収して市場にばらまかなければならないだろう。
接収した金銀財宝の一部は商人に渡したりして。
喜んでもらえた。
馬車で運んでもらってるお礼だ。
護衛の報酬と相殺してもこっちに分があるから別に損じることでもない。
オーラって便利。
なんてことを考えていると、
「ウーニャー!」
いつも通りの後頭部ペシペシ。
「なぁに?」
ついつい甘い声を出してしまう僕。
なんとなくウーニャーは庇護欲を刺激される。
ちなみにそこに性欲は含まれない。
念のため。
「ウーニャーもオーラを覚えたい!」
ああ、とか、うう、としか言えない。
「別に覚えて楽しいモノじゃないですよ?」
これはツナデ。
「既にドラゴンブレスっていう強力な術をもってるじゃん!」
これはイナフ。
「なんというか……グワングワンしますよ?」
これはフォトン。
そんなかしまし娘の言葉に、
「ウーニャー!」
ウーニャーは後頭部ペシペシ。
「持っている者の傲慢だよ!」
ま~ね~。
「お姉さんも興味あるわ。エルフ魔術……だっけ? 別にエルフ固有のモノというわけではないのでしょう? マサムネちゃんやツナデちゃんが使えるんだから」
まぁね。
誰だって覚えれば使えるけどさ。
努力すれば誰でも使える。
少なくとも魔術と違ってセンスを問われる世界ではない。
だがそれ故に頒布するのは危険だ。
巫女が神の観測に応じて世界を変じる際において遁術を知っていたとは思えない。
となれば遁術……エルフ魔術は世界そのものの共通点という事だ。
基準世界と準拠世界。
その橋渡しとしての一つだろう。
それ故に強力すぎる力となる。
魔術と違い対応策が無いのだ。
もっとそれを言うのならフォトンの魔術もウーニャーのブレスも似たようなモノか。
「まぁ別にいいけど」
妥協。
そして諦観。
「でもウーニャー」
「なぁにパパ!」
「その四肢で印結べるの?」
ウーニャーはドラゴン。
トカゲに羽が生えたような外見だ。
しかして、
「人化すれば大丈夫!」
まぁそうなんだろうけどさ。
でもわざわざ遁術を行使するためだけにいちいち人化する気か?
そう思わざるを得ない。
「魔術を覚えた方が良くない?」
「ウーニャー! それももちろん覚えるよ!」
「二足のわらじって知ってる?」
「今のパパみたいな能力だよね?」
それを言われると辛いんですが……。
「フィリアも?」
「まぁ魔術はトライデントで代行できるしね」
ね、が一音高かった。
戦術……どころか戦略……いやいや政略レベルの武器である。
トライデントと云うのは。
これ以上何を得ようというのか?
そう言うと、
「エルフ魔術を使う者にエルフ魔術は効かない……だったわね?」
「まぁね」
「ならそれはこの世界では便利な力となるわ。お姉さんとしてもトライデントを持っているからって最強を名乗ったりしないの。ましてエルフ魔術への対策を今後持っていないという事は致命的だと思うのよ」
そうですか~。
「別にいいけどね」