形の国09
馬車は速い。
少なくとも徒歩よりは。
そんなわけで野宿することもなく僕たちは馬車に揺られ、次の村に着いた。
羊の放牧をしている村だった。
のどかな村だ。
安心感さえ覚える。
ともあれ、
「今日はここで一泊しましょう」
言外に、
「宿泊費は自分で見繕え」
と聞こえてきた。
気のせいだろう。
ともあれ僕らは必要以上に金銭宝石をため込んでいる。
元々のフォトンの財産。
それからツナデがライト王から与えられた支度金。
加えて無謀にも僕らを襲ってくる山賊のねぐらの金銀財宝の収集。
そんなわけで一切金銭に対して困ることが無かったのだ。
ん。
まぁ。
所謂一つの、
「悪人に人権は無い」
である。
そんなファンシーな世界にいるのは何だかな?
ともあれ村に着いてすぐ僕たちは宿にチェックインした。
どうせ金を出すのは四次元ポケットを持っているフォトンとツナデだ。
ヒモだなぁ……。
そんなこんなで宿に泊まって……ちなみに護衛対象の商人は金が無いため馬車で寝るらしい……食事を振る舞われ、その席でトランプに興じる。
僕の劣勢で大貧民が終わると、
「お客様……」
と声がかけられた。
「…………」
全員がそちらを見る。
老人がいた。
ヨボヨボだ。
「ウーニャー……誰?」
ウーニャーの遠慮の無さも慣れたものだ。
「お客様は冒険者であらせられますか?」
構わず本題に入る老人。
「無免許ですけど」
これはフォトン。
「お願いがございます」
「金を持っている様には見えませんが?」
これはツナデ。
「で、何の用!?」
快活にイナフ。
「この近辺に出る狼を退治してほしいのです。交渉額は幾らでも相談させてください」
「…………」
まぁ当然と言えば当然だった。
羊を放牧しているのだ。
狼の対象にならないわけがない。
前の村でも対処した案件だ。
「宿代タダにしてくれたら引き受けてもいいですよ?」
僕が提案する。
老人は目を丸くする。
「その程度でいいのですか?」
もっとふっかけられると思っていたのだろう。
だがこのくらいならお茶の子さいさいだ。
「お兄様は人が甘いですね」
これはツナデの皮肉。
「マサムネ様……本気ですか?」
これはフォトンの疑問。
「フォトンならわかるでしょ?」
「何がでしょう?」
「狼の潜む場なんてここから感知できるってことにさ」
「…………」
反論は起こらなかった。
僕およびフォトン。
そのオーラの展開能力は半径一万メートルに達する。
即ちその圏内の事象を観測できることに他ならない。
「狼を殲滅すればいいんですよね?」
「その通りです。出来ますか?」
「出来ますよ」
ニッコリ笑って僕は頷く。
そしてオーラを広げる。
「……っ!」
フォトンとツナデとイナフ……かしまし娘が僕のオーラを感知する。
対して僕のオーラは狼の巣穴を感知する。
子どもの狼もいるようだが情けは無用だろう。
僕は複雑な印を結ぶと術名を発す。
「火遁の術」
次の瞬間、狼たちに炎撃の幻覚が襲った。
「ガアアァァァッ!」
と長だろう一際大きい狼が吠えた。
無論のことそれはオーラで感じている疑似触覚だけなのだが。
苦痛にのたうち狼たちは一匹残らず死に絶える。
それから僕は想像創造をすると、世界宣言をした。
「木を以て命ず。薬効煙」
薬効煙をくわえてさらに想像創造……後の世界宣言。
「火を以て命ず。ファイヤー」
くわえた薬効煙に火を点ける。
薬効煙を吸って紫煙を吐くと、
「はい。狼は殲滅しましたよ?」
「は?」
老人はポカンとした。
が、僕に説明する気は無かった。
正直億劫だ。
僕は薬効煙をスーッと吸ってフーッと吐くと表情を弛緩させるのだった。
信じてもらう必要が無いからだ。