形の国08
馬車は村から街へと向かう最中だという事らしい。
商人曰く、だけど。
ちなみに報酬は食事の援助。
馬車の中は狭く僕らが入って精一杯だった。
故にカードゲームに興じることも出来ず、僕らは四方山話をする。
「そういえば村には動くおもちゃもぬいぐるみもいなかったね」
「端っこの村ですし」
「お兄様は動くおもちゃやぬいぐるみを見たいのですか?」
「それは無論」
正直に首肯する。
「ドール王自身もおもちゃなのかな!」
イナフの疑問に、
「さて」
フォトンは肩をすくめる。
元より光の国のライト陛下に閉じ込められていた身の上だ。
型通りの情報しか持っていないのは頷けた。
「ウーニャー! パパはおもちゃになりたい?」
「勘弁」
僕は両手を挙げる。
その頭部に乗っているウーニャーが尻尾でペシペシ。
「勘弁なんだ」
「冗談じゃないね」
それっぱかりは断言せねばならないだろう。
「第一マサムネちゃんがお人形さんになったら抱けないじゃない」
フィリアが発禁なことを言うが、
「そういうこと」
僕は乗っかった。
「そうなんですか」
これはフォトン。
「ですよね」
これはツナデ。
「イナフもお兄ちゃんに抱いてもらいたい!」
これはイナフ。
「ウーニャー! ウーニャー?」
これはウーニャー。
「お姉さんはいつでもいいわよ?」
これはフィリア。
そして、
「ガルル!」
「グルル!」
「フギーッ!」
「キシャーッ!」
「フシャーッ!」
互いに牽制する五つの乙女回路。
「落ちつけ」
結構強めに美少女三人と一匹のドラゴンと一人の美女にチョップをかます。
一人と一匹は苦にもしないが。
ともあれ誰と恋に落ちるにしても肉体が無ければ意味は無い。
俗物の理論ではあるが僕とて並行世界では一介の青春真っ盛りの高校生だ。
性欲が無いと言えば嘘になる。
しかも忌々しいことにフォトンもツナデもイナフもフィリアも美少女……あるいは美女と呼ばれる類の人種だ。
イナフはハーフエルフだけど。
ウーニャー?
さすがに守備範囲外。
可愛いのは認めるけど愛玩に近い感覚だ。
だいたい、
「パパ」
と呼ぶ相手を抱いたら向こうの世界では手錠モノだ。
こっちでも割腹モノだが。
いや、可愛くはあるよ?
あるけどさ……。
ウーニャーに手を出せば今度こそ銀竜王の空間ブレスを受けかねない。
人間であれば即死だ。
防げるのはフォトンかウーニャーくらいのものだろう。
正直あの一撃に畏怖を覚えないと言えば嘘になるのだから。
「…………」
「ウーニャー! パパどしたの?」
ウーニャーが尻尾で僕の後頭部をペシペシ。
「いや、世の無常について考えていたんだけどね」
誤魔化す。
まさか、
「五人の美少女に欲情していました」
なぞと言えるわけも無く。
「祇園精舎の鐘の声……ってね」
「諸行無常の響きあり……ですね」
僕とツナデだけ理解する。
他の子たちは、
「?」
と首を傾げる。
それはそうだろう。
ここが地球と言っても、全ての歴史は塗り替えられている。
源平合戦なぞあってはいないだろう。
あるいはあっているかもしれないけど、少なくとも大陸に伝わっているとも思えない。
巫女は言った。
マサムネとは東の方の名前だと。
つまりファンタジーでありながら、この世界は基準世界に準拠しているという事だ。
あるいは極東の国……日本に準拠する国こそがエデンの園になるのかな?
確証は無いけども。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰のことはりをあらはす。
全ては無常。
なればこそ……こちらの世界……準拠世界を大いに楽しもう。
そう思う。
「ウーニャー? パパ……難しい顔……」
「何でもないよ」
ピコンとドラゴンの額にデコピンをかます。
それから意味も意義も無い会話を聞きながら、次の村へと馬車は僕たちを運ぶのだった。