形の国07
僕たちは風呂に入っていた。
フィリアの持つ神器……トライデントによるものだ。
「さすがに村の一部に大きな穴をあけるのはまずいだろう」
ということで、地面すれすれにお湯の塊を集めてボックスと化した。
弁当箱みたいな形を思い浮かべてもらえればいい。
そしてその地面の上に出来た風呂に僕たちは入った。
水には浮力がある。
お湯ならばさらに。
そんなわけで地面すれすれに造られたボックス型のお湯の塊の中に身を置いて、顔だけをお湯の外に出して呼吸をする。
ちょうどイナフの身長で顔が出せる程度の深さだ。
僕やフォトンやツナデは肩が出るため膝を曲げる必要があったけど……それでも風呂に入れるのはありがたいことだ。
ちなみにフィリアはトライデントを握ってお湯の塊に入りつつ、別方面にも力を割いていた。
洗濯だ。
先の僕とツナデの演武によって汗や垢を染みさせた服をキューブ状の水の塊の中に入れて乱気流ならぬ乱水流にて汚れを落とす。
それから水分を操ってパリッと乾燥した服に変えるのだった。
便利だなぁ。
トライデント。
ともあれ僕と旅のお供は水着姿でお湯につかるのだった。
「風呂が無ければ造っちゃえばいいじゃない」
まさにその通りだった。
マリーさん万歳。
水着姿という事もあり泳いだりしてみたりして。
クロール。
クロ~ル。
パシャパシャと泳いでいると、
「やん」
と艶っぽい声が聞こえた。
クロールの最中に……、
「…………」
手先に柔らかい物が触れた。
それは、
「マサムネ様は大胆です」
フォトンの胸だったらしい。
「ごめん」
「謝る必要はありませんよ?」
そうなの?
「むしろもっと先を求めます」
却下で。
僕がそう言うと、
「いくらでも弄んでくださっていいんですよ?」
フォトンは挑発するように言う。
「てい」
僕はチョップをかます。
「うぐっ」
頭部を押さえて痛がるフォトン。
どうせ不老不病不死なんだから実質的には何も感じてはいないだろうけど。
「良いお湯ですねお兄様」
今度はツナデだ。
僕の腕に抱きついてくる。
フニュンとした感触が僕の腕を襲う。
フィリアほどではないがフォトンもツナデもプロポーションは抜群だ。
「あわわ」
慌てる僕。
お湯の中では逃げることもままならない。
「良かった」
何が?
「お兄様はツナデに欲情してくださるのですね」
安堵というか安心というか……そんなものを感じた。
元の世界ならあり得ないことだ。
だからってツナデの慕情を受け入れるかは別の話だけど。
とまれ、ボックス箱型のお湯の塊に身を沈めていると、
「うわあああああっ!」
と悲鳴が響いた。
麦畑はともかく……それ以外では決して広くはない村だ。
人の悲鳴が聞こえるのも当然だろう。
僕はオーラを広げた。
そして感知する。
村の一角で商人だろう人間が狼に襲われていた。
「…………」
僕は湯の中で印を結び術名を発す。
「火遁の術」
そして村に現れた狼に炎の幻覚が襲う。
茫々と燃える炎。
それは全て幻覚でありながら……あまりに現実的な情報の注入である。
少なくとも脳を持つ限り抗える代物ではない。
僕は水着姿のまま、お湯の塊から出る。
そして狼の死骸を眺めやる商人の元へと行った。
「大丈夫ですか?」
無難な質問。
「ああ、私は……。先の火炎は君が?」
「まぁそうですね」
嘘をついても得しないだろう。
「なるほど。魔術と云う奴だね?」
「ええ」
本当は違うのだけど……まぁエルフ魔術という意味では正解だ。
訂正するほどでもないだろう。
「かなりのやり手だね?」
「どうでしょうね……」
「護衛を頼まれてくれないか?」
「商人の馬車の……ですか?」
「然り」
間髪も無かった。
「そう言われるのならいいですけど」
こっちとしても渡りに船ではあった。
だから商人の提案を受け入れる。