形の国06
「……しっ!」
「……ふっ!」
僕の踏み込みからの手刀をツナデは受け流す。
裏を取られる。
ツナデの掌底。
腹部へと。
逆の手の一本拳でけん制。
掌底がピタリと止まった。
「しま……!」
強引に僕は跳躍する。
掌底はフェイント。
勁の練られた膝蹴りを力技で回避した。
着地。
体勢を整えるのをツナデが待ってくれるはずもない。
当然だけど。
が、それならそれでやりようはある。
要するに現在の体勢を標準と思えばいいのだ。
着地の衝撃を緩和するように深く沈み込む。
と同時に軸回転。
繰り出すは足払い。
そのギリギリを見切ってツナデが跳躍する。
月光に黒いロングヘアーが輝く。
身を沈み込ませた体勢の僕の、その頭部の高さまで跳躍するとツナデは跳び回し蹴りを放ってきた。
その軌道上には僕の頭部が。
受けるか。
避けるか。
判断は一瞬。
受けた。
勁を練って力を集中させる。
「しっ!」
裏拳の要領でツナデの蹴りを弾こうとしたが、
「ふっ!」
ツナデは跳躍の一瞬で体勢を無理矢理変えると空中にいながら先までの蹴りをキャンセルして踵落としに変更した。
……というよりソレを狙っていたのだろう。
対する僕は足払い故に回転させていた体をさらに回転させて、上段回し蹴りを放つ。
とは言っても身は沈めたままなのだけど。
「……っ!」
それはどちらの呼気だったろう。
僕の回し蹴りとツナデの空中踵落としが拮抗する。
弾かれたのは両方。
ただしこっちは地に足を付けており、ツナデは空中だ。
どちらが有利か……。
言うまでもない。
僕は掌底を選んだ。
狙うはツナデの腹部。
決まった。
そう思った。
が、僕は根幹的なことを忘れていた。
何故にツナデが僕に拮抗できるのか。
先見。
予知。
状況から推察して未来を読む。
それに長けるが故にツナデは筋力差では圧倒的な僕についてこられるのだ。
襲う掌底をツナデは肘と膝とで差し挟み、無力化してのけた。
腕に鈍痛が奔る。
無視。
掌底は威力を減じながらもツナデの腹部に衝撃を与える。
間合いが広がった。
腕に痛みは残ったが、状況で言えば五分五分だろう。
ツナデに掌底のダメージが無いとは考えにくい。
すかさず間合いを詰める。
「……っ!」
掌底。
引いて避けられる。
さすがに見切られるか。
追い打ち。
貫手だ。
対するツナデも貫手で応対する。
僕は腕を蛇のようにしならせてツナデの貫手に取りつく。
ギュルッと螺旋を描いて細かに回転する僕の貫手に、
「ふっ!」
呼気一つ。
ツナデは腕を跳ね上げて僕の攻撃を無力化する。
相も変わらず状況判断が神懸かっている。
こればっかりは僕には無理だ。
少なくとも『現状』では。
とまれ片方の腕を突き出した状況だ。
どこまでも僕が不利だろう。
「あー……」
もはや勁を練るより他にない。
ツナデの掌底がモロに僕の心臓に当てられた。
ただし軽く。
本気で打たれれば心停止くらい起こすだろう。
そう悟らせる掌底だった。
「僕の負け……だね」
素直に結果を受け入れる。
妹に負けるのもどうかと思うけど、それだけの物を有しているという事だろう。
敗北感は決して悪いことではない。
「いえ」
謙遜するツナデ。
「お兄様は手加減なさってましたから」
「わりかし全力だったんだけど……」
「リミッターを外さない上で……でしょう?」
まぁね。
そうして演武は終わるのだった。