形の国04
神都も脱したしで、
「……はふ」
僕は遠慮なく薬効煙を吸っていた。
やっぱりこれだよ。
フーッと煙を吐く。
時間は昼。
場所は形の国の北の山岳。
そこで流れる川に竿を向けて糸と針とを垂らす。
やはり釣りは良い。
頭を空っぽに出来る。
「……ほえ」
煙を吸う。
プカプカ。
「ウーニャー!」
ドラゴンの姿のウーニャーは相も変わらず僕の頭の上に乗っている。
そしてペシペシと尻尾で僕の後頭部を叩く。
これも変わらずだ。
「どうしたのウーニャー?」
「ウーニャー!」
意味がわかりません。
「ブラッディレインはここにいるのかな?」
「さぁてねぇ」
薬効煙をプカプカ。
指で挟んで一時的に口から離すとフーッと紫煙を吐く。
一種の麻薬だけど僕にとっては精神世界における鎮静剤だと言って言い過ぎることは……多分ない。
「この国が本当にフォトンの言う通りなら……ブラッディレインの食指が動くとは思えないけど……」
神の国の南に向かったというのはあくまで情報だ。
正しいかどうかはわからない。
まして形の国ともなれば……。
「ウーニャー!」
ペシペシ。
「何で?」
「生命を殺すことと無機物を壊すことは違うからさ」
「ウーニャー! 違うかな?」
「決定的にね」
くつくつと笑ってやる。
そして薬効煙を吸う。
と、
「お?」
クイクイと竿がしなった。
「かかったよパパ」
「だね」
力の限りを以て釣り針にかかった魚を釣り上げる。
「ウーニャー」
「うん!」
阿吽の呼吸。
ウーニャーは僕の釣り上げた魚をくわえて火元へと持っていく。
パタパタ。
小さな翼を羽ばたかせながら。
そしてツナデに釣り上げた魚を渡すと、また僕の頭の上に乗る。
ツナデは魚を串に通し火炙りする。
僕はまた虫を捕まえて釣り針に刺すと川に垂らす。
スーッと煙を吸う。
フーッと煙を吐く。
ほにゃらっと相好を崩して、
「うーん」
満足する。
「ウーニャー!」
「なぁに?」
「パパはブラッディレインをどう思ってるの?」
「未知数」
「未知数?」
「未知数」
トートロジーに答える。
というか他に言い様がない。
人には四つの苦しみがあるという。
曰く、生。
曰く、老。
曰く、病。
曰く、死。
これをもって四苦という。
そしてブラッディレインたるラセン、それからフォトンは、その内の三苦を……つまり老と病と死とを克服した存在だ。
「…………」
煙を吐く。
生きることのみが苦しい。
それがフォトンの苦である。
あるいはラセンもそうなのだろうか。
とても推し量れるものではない。
だから、
「ウーニャー……未知数なんだ……」
「うん。未知数」
と言うしかないのだ。
薬効煙をプカプカ。
釣り糸を垂らす。
ある種この釣りが僕の……この世界での娯楽の一つである。
クイクイと竿がしなる。
「ウーニャー! パパ!」
「あいあい」
僕はピッと釣竿を引く。
また一匹、魚を釣り上げた。
フーッと紫煙を吐く。
「ツナデに焼いてもらって」
「ウーニャー!」
一苦。
その地獄を僕はまだ知りえる由も無かった。