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形の国03

 引き続き山の中。


 シーツを広げて寝転がる。


 月が出ていた。


 産業革命は起こっていないから綺麗な夜空である。


 人の営みの変遷も良し悪しということだろう。


 さて、


「そう言えばここはどういう国なんだろ?」


 僕はフォトンに問うた。


「名称は『ぎょうの国』です」


 端的に答えられる。


「ぎょうのくに?」


 とっさに漢字が変換できない。


「『かたちのくに』と書いて『ぎょうのくに』と読みます」


「形の国……」


「はい」


 寝転んだままフォトンは言う。


「『人形』から『人』を取って『形の国』……と」


「あー……っと?」


「わかってますよ」


 フォトンはニコリと笑った。


「別名おもちゃの国……つまりおもちゃやぬいぐるみなどが跋扈している国なんです」


「正気か?」


「ええ」


 躊躇いは感じ得なかった。


 嘘を言っている気配はない。


 からかっている感情もない。


 フォトンの表情の筋肉からそれは読み取れた。


 だからといって、


「はいそうですか」


 にはならないが。


「遊園地みたいな国ってこと?」


「ゆーえんち……ですか?」


 心底わからないとフォトン。


「まぁこっちの世界に無いのは必然だね」


 産業革命の起こしたエンターテイメントだ。


 エネルギーの浪費による奇形児。


 第三次産業の象徴。


 こちらの世界ではありえないだろう。


 少なくとも巫女がファンタジーの世界を観測する限りにおいては。


 閑話休題。


「着ぐるみの国ってこと?」


「いえ」


 否定。


「おもちゃやぬいぐるみに命が宿って自由に闊歩している国です」


「…………」


 沈黙以外に何を選べと?


「正確には形の国のドール王が望む人をおもちゃやぬいぐるみに魔術で変えるんです」


「魔術で……おもちゃに……」


 正気の沙汰とは思えんな。


 というか、


「望む人間がいるのか?」


 純粋な疑問だった。


「無論ですよマサムネ様」


 クスリとフォトンは笑う。


「おもちゃになるということは自意識を保ったまま無機物へと変わることです。寿命……病気……奇形……障害……それらに苦しむ人たちにとっては形の国のドール王への謁見は何にも勝るものです」


「おもちゃになることでそれらを克服すると?」


「ですです」


「…………」


 何だかなぁ。


 有機物を無機物に変える。


 それも自己を保ったまま。


 たしかにそれなら人体の劣等を忘れられるだろう。


 けど……ねぇ?


 それを望んでどうする。


 それは拭い難い忌避感だった。


 あるいは僕も欠損を負えば同じ思いを抱けるのだろうか?


 人形になりたいと。


 おもちゃになりたいと。


 ぬいぐるみになりたいと。


 無機物になりたいと。


「…………」


 思案しながら月と星を見る。


「まぁ私たちには関係ない案件ですけど」


「?」


「私の無限復元がある限り欠損はどうとでもなります故」


 そりゃそうだ。


 若返りこそ出来ないものの、あらゆる障害を修復する能力。


 それがフォトンの無限復元である。


 命の価値を薄めるという意味ではどっちもどっちだけど。


「なんだかなぁ」


 呻いてしまう。


「ウーニャー! パパはおもちゃになっちゃ駄目だよ?」


「そんなつもりは毛頭ないよ」


 虹色の髪に虹色の瞳を持つ幼女の頭を僕は撫ぜる。


 それだけでウーニャーはくすぐったそう笑う。


「ウーニャー……」


「ウーニャーは可愛いね」


「ウーニャー!」


 人化したウーニャーを抱きしめて僕は目を閉じる。


「形の国……ね」


「はいな」


 フォトンが同意する。


「お兄様」


「お兄ちゃん」


「マサムネちゃん」


 どうやら旅のお供の誰も形の国の誘惑には囚われていないようだった。


 当然と言えば当然だけど。


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