光の国10
「マサムネと言ったか。まさかダークを圧倒する猛者が現れるとは……世界は広いな」
いやまぁ……こっちの世界の住人ではないのだけど……。
ダークを下した後、僕とフォトンは謁見の間に呼び出された。
待っていたのはライト王。
光の国で最も権力を持つおっさんである。
王との謁見にあたってクナイは没収された。
当たり前だけど。
「陛下。こちらは私が異世界から召喚した騎士様です」
「異世界!?」
「はい。闇魔術を少々……」
闇魔術って何よ?
……とは聞けないタイミングだった。
「私は今までバーサスを持たないでおりました」
そんなフォトンの言葉に、
「そうだな」
ライト王は頷く。
「フォトンに釣り合う騎士がおらぬ故だな」
「はい」
フォトンは頷き、
「ならば私に釣り合う騎士を異世界から召喚しようと思った次第であります」
「ふむ」
ライト王は僕に目をやる。
しげしげと見つめ、
「マサムネ」
「何でしょう陛下?」
「お主はフォトンとの契約に納得しておるのか?」
「契約?」
「フォトンのバーサスになることに疑問は無いのかと聞いておるのだが」
「できることなら元の世界に返してほしいですけどね。それが出来ない以上こちらの世界に順応する他ないでしょう」
「答えになっておらんぞ?」
「そもそも魔術師とか騎士とか言われてもピンとこないもので……」
肩をすくめる他ない。
するとライト王が
「お主……王属騎士にならぬか?」
そんな提案をしてきた。
「王属騎士?」
問い返す僕。
そう言えばダークがそんな自称をしていたなぁと……ぼんやりながら記憶を掘り起こす僕だった。
「お待ちください王よ」
制止したのはフォトン。
チラリとフォトンを見やるとフォトンもこちらを見ていた。
表情から察するに、
「こちらに任せて」
と読み取れた。
「マサムネ様はこちらに来てまだ日が浅い……どころか今朝召喚したばかりです。今だ不慣れなこの場にて、しがらみにとらわれることを良しとしないでしょう」
「ふむ、一理あるな」
蓄えた髭を弄りながらライト王は納得する。
「えーと、異世界故によくわからないことだらけなので……光栄を損なうことを十分承知でもう少し待ってもらうわけにはまいりませんか?」
僕は人畜無害を演じる。
「しかしてマサムネ……王属騎士になれば何かとやりやすいぞ? 金の都合も権力の都合もついてくる」
そこまで言って、
「無論、先にフォトンが言ったようにしがらみもまた発生するが……」
「例えば……戦争への参加……とか?」
うっかり敬語を使うのを忘れると、
「ライト陛下に対して何という非礼か!」
謁見の間にいた十人ほどの騎士の内の一人が剣を抜いた。
が、
「止めよ」
そんな鶴の一声で事態は沈静化した。
ライト王の言葉である。
「マサムネは異世界よりの訪問者である。こちらの世界と礼節に違いがあっても不思議ではあるまい」
「陛下がそのように仰るのなら……」
騎士はしぶしぶと抜いた剣を鞘へと戻した。
「ともあれ」
閑話休題とライト王は言う。
「戦争に駆り出されることほとんど無いと言っていい。お主がフォトンのバーサスとなるのならばな」
「なにゆえ?」
「無論フォトンが戦場に出ないからだ」
「そなの?」
僕はフォトンに問う。
「まぁ……色々あるんです」
フォトンはそうとだけ呟いた。
「それ以上聞くな」
と表情が語っていた。
ならスルーが賢明だろう。
「というわけだ。フォトンのバーサスとして王属騎士になれば戦場に赴かず財力と権力を振るうことが出来るぞ? なんなら屋敷を構えてハーレムを作ってもいい。王属騎士が徴収するのなら生娘たちはこぞって寄ってくるだろう」
「はあ……」
そんな成金まがいの生活は殊更に嫌だけど真正面から否定するのも躊躇われて言葉を濁すのだった。
「今すぐ王属騎士になれとは言わぬ。しかして考慮の余地を持っていてほしい」
ライト王がそう言うとともに謁見は終わった。
「やれやれ」
と呟いて僕は後頭部をガシガシと掻くのだった。
王属騎士?
権力?
財力?
どうも何やら俗っぽい。
まぁそれについては後ほど僕のバーサスの魔術師……フォトンに聞けばいいだろう。
そう結論付けて僕は謁見の間を出るのだった。