形の国02
山道を歩いていると開けた所に出た。
山賊?
月に代わってお仕置きしました。
後顧の憂いを断つのも戦術だ。
少なくとも見得商売でなめられては意味をなさない。
で、それは倫理的にはともかく実利的に意味があったとして、今日は山の開けた場所で一泊することになった。
とはいっても布製のシーツくらいは敷くし、それは魔術で生み出せ、フォトンとツナデの持つ四次元ポケットからいつでも取り出せるように準備もされている。
何より野営でありながら風呂に入れるのが僕らのパーティの利点でもある。
トライデント。
それによるものである。
フィリアのトライデントは水を操る。
それは何も攻撃に限った話ではない。
ともすれば無尽蔵の水分補給にも繋がるし、入浴にも繋がる。
フィリアがトライデントを用いて地面を掘削。
後に湯で満たす。
簡素な風呂の出来上がりだ。
ちなみに言っておくなら全員が水着着用である。
神の国の巫女に口利きしてもらって水着を揃えてもらった。
これによって全裸を僕に晒す必要も理由も消失した。
女の子たちは不満を述べ立てたけど、
「知ったこっちゃない」
が僕の本音だ。
掘削されて一時的に風呂となった地面に身を沈める。
「極楽極楽」
湯船に肩までつかる。
「パパ! 良い気持ち!」
「だね。ウーニャー」
虹色の瞳で僕に抱きついてくるスクール水着姿のウーニャーの虹色の髪を僕は優しく撫でる。
「お兄様の浮気者……」
拗ねたようにツナデ。
というより事実拗ねているのだろうけど。
結局ツナデとはどうすればいいんだろう?
ツナデは僕との異世界での縁を大切にしている。
そしてそれを強調してさえいる。
では僕は?
考えるとドツボにはまりそうだった。
だから考えないようにする。
「お兄様さえ良ければツナデはこの身を何時でも差し出しますよ?」
「あー……」
困ったものである。
「却下で」
「何故です!」
それを僕に言わせるの?
湯船に浸かる僕。
「気持ちは嬉しいけど……ね」
他に言い様がない。
憧れは厄介なものである。
フィリアはお風呂に浸かりながら神器……トライデントを握っていた。
そして洗濯をしていた。
水球(スポーツのことではない。念のため)つまり水で形成されたスフィアを造りだし、中を乱水流とした。
洗濯である。
ぶっちゃければ。
僕やフォトンやツナデのスーツ。
イナフのカジュアルな私服。
ウーニャーのゴスロリ。
フィリアのドレス。
それらを中空の水の球が乱水流でもみくちゃにしている。
そして汚れが取れたら水分を弾き飛ばし、パリッとした衣服へと変えるのだった。
水分を操るのはトライデントの十八番だ。
それは何も水分を与えるだけではなく、水分を失くすことにも直結する。
結果としてアイロンをかけたような丁寧な服が再現される。
それらの洗濯物を木の枝にかける僕ら。
そしてまた風呂に入り直す。
良いお湯だった。
薬効煙でも吸いたい気分だったけどまぁそれは後にしよう。
「ウーニャー! パパの体逞しい!」
「鍛えてるからね」
それだけでもないんだけど言う必要はないだろう。
「お兄様」
「なに?」
「ツナデでは足りませんか?」
「何を以て?」
「性欲の対象としてです」
「…………」
そんなことはないんだけどね……。
クシャリとツナデの黒い髪を撫ぜる。
「魅力的なのは否定しない」
「本当ですか……っ?」
「本当」
「ではツナデと!」
「却下」
「むぅ」
呻くなっちゅーの。
ツナデは口元をお湯につけてブクブクと泡立てさせた。
抗議の一環らしい。
知ったこっちゃないんだけどね。
というかフォトンにしろツナデにしろイナフにしろウーニャーにしろフィリアにしろ僕の何処がいいんだ?
僕としては一般的な一市民を自称しているんだけどな。
そう言うと、
「お兄ちゃんは自身の価値をわかってない!」
イナフがそう否定するのだった。
でも……。
ねえ……?