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神の国27

「まぁソレについての論議は置いておくとして……」


 置いとくんだ……。


 そう思う僕に、


「シュレディンガーの猫についての説明をお願いできますか?」


 巫女が言った。


 僕は答える。


「箱に猫を一匹入れる。箱の中に放射性物質のラジウムとガイガーカウンターと青酸ガスの発生装置を一つ入れておくという条件だ」


「はい」


「箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すとガイガーカウンターが感知して青酸ガスの発生装置が作動し青酸ガスを吸った猫は死ぬ」


「はい」


「ラジウムがアルファ粒子を出さなければ青酸ガスの発生装置は作動せずに猫は生きていることができる」


「はい」


「一定時間経過後、果たして猫は生きているのか死んでいるのか。観測するまでわからない……だったっけ?」


「然りです」


 満足げに巫女は頷いた。


「?」


 と異世界ガールズ。


 わかってるよ。


「この際ラジウムについては思考放棄していい。要するにミクロの振る舞いによってマクロな世界に影響が出るって極論する実験なんだよ」


「はあ……」


 と異世界ガールズ。


「さて、ミクロの世界のランダムさ加減によって猫の生死は分かたれる。でもそれは箱を開けないと確認できない。ここまではいい?」


「はあ……」


 と異世界ガールズ。


「つまり箱の中の猫の生死はまだ確定していない。生きている可能性もあれば死んでいる可能性もある。そしてそれを確認するためには箱を開けるしかない。つまり箱を開けていない状況では猫は生きている可能性が五十パーセント、死んでいる可能性が五十パーセントを持つことになる。もうちょっと深くつっこむのなら箱の中の猫は生きている状況と死んでいる状況とを同時に併せ持っていることになるんだよ。つまり生と死という二つの確率を同時に持ち、箱を開けてそれを観測者が観測することでやっと猫は生きているか死んでいるか……どちらかの確率に収束するわけ」


「そんな無茶苦茶な……」


 と異世界ガールズ。


「そんな無茶がまかり通るのが量子力学なんだよ」


「ウーニャー! 観測しなければ波動で、観測することで粒子になる電子みたいだね!」


「まぁ似たようなものだよ」


 僕は紅茶を一口。


「で? そのシュレディンガーの猫がどうしたの?」


「先回りして言うとここは地球なんです」


「…………」


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 …………………………はい?


「ワンモアプリーズ」


「ここは地球なんです」


 迷いもなく巫女。


「冗談じゃなく?」


「冗談じゃなく」


「このトンデモ世界が地球で行なわれているって?」


「そう言いました」


「人類の知らない大陸でもあるっていうの?」


「まさか」


 だろうね。


 そんなモノがあれば人工衛星が観測しているはずだ。


「それでもなおここは地球だと?」


「事実、太陽や月はマサムネたちが居た世界と同じ周期でしょう? 星だって冬になればオリオン座が見れますよ。こんな偶然があると思いますか?」


「…………」


 それを言われると痛いなぁ。


「しかしここが地球だとして、どうして世界はこんな風に成ってしまっているんです?」


 これはツナデ。


「人間原理ってご存知です?」


「人類が生まれるために世界が出来ている……あるいは人類が観測することで宇宙はその存在を人類に都合よく測定できる……っていう理論でしたっけ?」


「ではインテリジェントデザインは?」


「空飛ぶスパゲッティモンスターが世界を創ったってアレでしょう」


「ならば世界五分前仮説は?」


「世界が出来て運営されたのは五分前……あるいは何時なのかわからないという仮説です。あらゆる過去が記録として準備されていて何時世界が始まったのかを証明できない……そんな言い分だったはずですが」


 さすがに回りくどい巫女の問いにツナデはイライラしてきていた。


 僕は紅茶を一口飲むと、


「それで何が言いたいのさ?」


 ツナデの代わりに話を進める。


 巫女は肩をすくめた。


「つまりですね」


 はいはい?


「人間原理とインテリジェントデザインと世界五分前仮説でこの世界は説明できてしまうんですよ」


「…………」


 沈黙する僕ら。


「人間が……つまりこの場合私が世界を都合の良いように観測する。空飛ぶスパゲッティモンスターがそれに合わせて世界をデザインする。それは世界改変であり世界五分前仮説が成り立つ……と、こういうわけです」


「…………」


 沈黙を貫く他ない僕ら。


 何をどう言えと?


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