神の国26
沈黙を破ったのはツナデだった。
「何故あなたがあっちの世界の……お兄様とツナデの居た日本を知っています?」
責める様なツナデの問いを無視して、
「異世界出身……日本人が……こちらに……?」
巫女はぶつぶつと独り言を呟く。
「答えなさい巫女……!」
追及するツナデ。
それで巫女は意識のピントをツナデに合わせた。
「ええとですね……」
「…………」
この沈黙はツナデのもの。
「私も日本出身なんですよ」
「…………」
この沈黙は僕たちの総意だ。
ええと、
「……はい?」
真っ先に意識を取り戻して問うたのは僕だった。
「巫女が……日本出身……?」
「はい」
幻聴じゃなかったらしい。
「ええと……巫女は……つまり……」
躊躇いがちに問う。
「日本人ってこと?」
「その通りです」
あっさりと首肯された。
え~。
そんなのあり?
困惑する他ない。
「ウーニャー! じゃあ……!」
とこれは僕の頭の上にいるウーニャー。
ペシペシと尻尾で僕の後頭部を叩きながら、
「巫女も異世界出身!?」
本質を突いた。
「まぁ半分は当たりです」
巫女はあっさりと頷く。
「私には二つの可能性があります。一つは日本の女子高生としての可能性。もう一つは神の巫女としてこの世界を誕生させた可能性」
「どういうことです?」
これはフィリア。
「どういうこと?」
これはイナフ。
僕は紅茶を一口。
「ウーニャー……まさか確率の重ね合わせ?」
僕の講義によって量子力学を多少齧ったウーニャーがそう結論付ける。
「確率?」
フォトンとイナフとフィリアが首を傾げる。
対して巫女は、
「そうです」
コクリと頷く。
「ふわ~」
とウーニャー。
「…………」
僕とツナデは必死に思考を巡らせる。
「どうやらマサムネとツナデは理解があるらしいね」
巫女が言った。
「いや、まぁ……」
「聞きかじった程度ではありますが……」
呆然と僕と妹。
一神教総本山……神の国の教皇猊下……神の巫女にあたる者がよりにもよって……女子高生……?
「ということは巫女も僕たちみたいに異世界に召喚されたの?」
「違います」
キッパリと否定される。
「では何です?」
追及するツナデに、
「この世界は私が創ったんです」
意味不明なことを巫女はのたまう。
「…………」
薬効煙を吸いたい気分だった。
そうすればもうちょっと気の利いた思考ができるというものだが。
「あなたが……この世界を創った……?」
ツナデは半信半疑だ。
いや……疑いが八割を占めるだろう。
無理もない。
少なくとも心境は僕も同じだ。
しかして、
「はい」
躊躇いなく巫女は頷いた。
「どういうこと?」
問わざるをえない。
「その前に」
巫女が言う。
「量子力学の話をしますがよろしいですか?」
「りょーしりきがく?」
フォトンとイナフとフィリアが首を傾げる。
「存在確率の濃淡を突き詰める学問です」
「漁師が?」
「量の子と書いて量子です」
「量子……」
「はい」
頷く巫女。
「シュレディンガーの猫について語りましょうか」
ベタやな~。
ツナデの表情を読むとこちらも同意見だったらしい。
「マサムネ」
「何?」
「シュレディンガーの猫は知っていますか?」
「動物愛護団体からクレームが出そうな実験のことでしょ?」
僕はあっさりと言ってのけた。