神の国24
神都に着くころには雨も止んだ。
雲の隙間からお日様が覗く。
空には虹が。
まぁ要するに水滴による光の乱反射なのだけどこっちの世界の住人にはわかるまい。
現に、
「ふわぁ!」
とフォトンとイナフは虹を見て感動していた。
フィリアは見慣れたモノなのか無感動を貫いている。
というかフィリアに関して言えば水を操れる理屈上、虹なぞいくらでも見られるのではなかろうか?
本人が原理を知らなければ、という前提を無視すればの話だけど。
ウーニャーはといえば、
「ウーニャーウーニャー! パパ! ウーニャーと違う七色!」
感動で僕の後頭部をペシペシ。
僕にしてみれば虹の七色こそ本来の七色なんだけど……それについて言及する必要もないだろう。
「さて……」
閑話休題。
「巫女さんには何処で会えるの?」
だいたい想像はつくけどさ。
僕は神都の中央にそびえ立つ高い壁を見やった。
オーラで確認してみる。
高い壁は間を広くとってグルリと真円の形をしていた。
それはかつてフォトンを閉じ込めていた光の国の王城……その城壁にも似ているな、なんて思ってしまう。
答えたのはフィリア。
「正確にはここはまだ神都じゃないのよマサムネちゃん。別のところに住んでいる人はこの辺りまで含めて神都って呼んでるけど、ここに住んでいる人たちはあの壁の向こうを神都と呼んで、壁の外を周辺街と呼んでるの」
「周辺街……ねぇ」
まさにバチカンだ。
ローマとあり方が全く変わらない。
どうやら光の国の城壁という印象は正しかったらしい。
あそこも城壁の中で一つの文明が息づいていたのだから。
僕たちは神都をグルリと取り囲む壁の入り口に立った。
ゴッド王が渡してくれた手紙を門番……執行者だった……に渡して判を確認させると中に入る。
「……っ!」
そこは……壁の内部は……荘厳の一言だった。
大理石で造られた街と呼んでいいだろう。
竜の国の竜王会議を見た時の感動をそっくりそのまま規模を広げて移し替えた様な在り様である。
どれだけの金が掛かっているのか。
とにかく荘厳だった。
道行く人たちはカソックを着てキビキビと歩いている。
どうやら大理石で出来た街に感想も感動も無いらしい。
ユートピアでは貴金属は軽視されるというけど、神都での大理石もそんな扱いなのだろうか?
あるいはブスは三日で慣れるという理論か。
まぁ初めて目にした僕たちは圧倒されても、毎日大理石製の街を目にしていればいちいち感動することもないのかもしれない。
コンコンと爪先で大理石のタイルを蹴る。
うーん。
セレブリティ。
神都にも市場や店はあるらしく、僕らは喫茶店でお茶をする。
誰も彼もがカソックを着ているので僕たちは浮いていた。
何せ僕たちが着ているのは喪服のスーツやら麻の服やらドレスである。
カソックとは程遠い。
しかして僕とドラゴン姿のウーニャーはともかくとして他のメンバーは美少女および美女揃いだ。
信徒の鼻の下が僕たちを見るたびにゆるんでいるのは果たして不敬罪なのかどうか。
まぁこんな美少女および美女を見れば性的欲求を抑えられないのは色欲を神に与えられた人間の業なのだろう。
そんなことを思いながら紅茶を飲んでいると、喫茶店の扉がカランカランというドアベルの音とともに開かれた。
入ってきたのはジョークかと思うくらい派手な衣装を纏った人物と……その護衛であろう複数人の執行者である。
全員が少女。
特に派手な衣装を纏った人物は美少女だ。
虹色のドレスを着ていて光の加減によって見える色が変わる……そんな不思議な光沢を持った衣装だ。
後に虹色蜘蛛の糸によって織られた服なのだと少女自身に言われたのだが。
ズカズカと虹色の衣装の美少女は執行者を連れて喫茶店を横切り僕たちの近くの席へ。
座って紅茶を頼むと嫌に敬意的なウェイトレスを下がらせて不機嫌に頬杖をつく。
それを物珍しげに僕が紅茶を飲みながら見ていると、虹色の衣装の美少女と目が合った。
数秒の沈黙……後に、
「わーっ!」
と少女が叫んだ。
「何事?」
とかしまし娘とウーニャーとフィリアが胡乱げな顔をする。
「ななな何この格好いい男の子はーっ!」
そう言って虹色の美少女は席を立ち、僕に走り寄って来て、僕を抱きしめる。
僕としては意味がわからない。
それはツナデとウーニャーも同様だろう。
だが、フォトンとイナフとフィリアは違った。
「巫女様。御冗談はその辺に。マサムネ様は私のマサムネ様です」
「巫女様! お兄ちゃんから離れる! お兄ちゃんはイナフのお兄ちゃん!」
「巫女ちゃん? マサムネちゃんは私のモノよ? 冗談も大概に……」
……はい?
「巫女? 誰が? この子が?」
僕は僕に抱きついている美少女を指差す僕に、
「…………」
フォトンとイナフとフィリアはコクリと頷いた。
ええと……。
何と言うべきか……。
何と言わざるべきか……。
僕は混乱する他なかった。