神の国22
五日ぶりの見慣れた顔だ。
「お兄様にそんなことが……!」
ツナデが驚く。
「お兄ちゃんが……!」
イナフも驚く。
「ウーニャー!」
ウーニャーは怒り狂って僕の後頭部を尻尾でペチペチと叩いた。
ちなみに毎度お馴染み僕の頭の上に乗っているのだ。
「では光の国のライト王はその信用を地の底まで失墜させた……と考えていいの? マサムネちゃん……」
フィリアは冷静に言葉を紡いだ。
「まぁもう一度行こうとは思えないね」
そう言って僕はトランプを切る。
もう一度言う。
五日ぶりの見慣れた顔だ。
美少女ばっかり……一人と一匹は厳密には違うけど……であった。
場所は神の国の王都の王城。
その一室。
お茶を飲みながらゴッド王を交えてトランプに興ずる女の子たち。
僕は不参加。
代わりに一ゲームが終わるごとにトランプを切る役目を負っていた。
ともあれ話題は僕の殺戮について……だ。
「軍隊に勝る一人。初めに報告を受けた時は意味が呑み込めなかったものです」
しみじみとゴッド王。
それについては、
「まぁお兄様ですから」
のツナデの一言で皆が納得した。
待て。
何故納得する?
そんなに僕は剣呑に見える?
ちょっとちょっとばっかりを暴れただけだ。
誤差の範囲である。
むしろ大勢を殺さずに無力化したのだから褒めて欲しいものだ。
そんなことを言うと、
「…………」
ツナデ以外の人間が半眼になった。
ツナデはニコニコしている。
僕が強いということが純粋に嬉しいらしい。
ある意味で一番の理解者だ。
こうである限り僕の心はツナデに惹かれてもしょうがない。
言葉にはしてやらないけどね。
「当然リミッターを外されたんですよね?」
「正解」
苦笑してやる。
「こちらの世界では思い煩う必要はありませんしね」
「それも正解」
またしても苦笑。
「いっそライト王をも殺せばよかったですのに……」
物騒なこと言うねツナデ……。
「そうすればゴッド王が軍隊を進攻させて光の国を乗っ取れたのではないですか? 王都の戦力が壊滅し、かつ王が隠れれば神の国にとってはこの上ないチャンスでしょう」
「ずけずけ言われるなツナデ様は……」
「なんなら手を貸してもいいんですよ? お兄様を害する国なぞ地図上にあるというだけで罪悪です。逆らう奴らを虐殺して神の国で上塗りするのも一興でしょう。それを行なえうるだけの戦力はここにありますが?」
そんなあまりと言えばあまりなツナデの言葉に、
「それは神の巫女に問わねばならない問題です」
ゴッド王は困ったように笑った。
「神の巫女……というと神都の?」
と首を傾げるツナデ。
心境は僕も同じだ。
ゴッド王は首肯する。
「はい。そして多分の確率で以て許可は下りないでしょう。神の巫女は無益な争いを好みません故」
「平和主義者ということですか?」
「ことなかれ主義ともいいますが」
「ツナデちゃん……巫女の言葉はデミウルゴス信者にとっては絶対なのよ」
諭すようにフィリアが言う。
「ツナデちゃんやマサムネちゃんみたいにあちら側の淡泊な宗教観じゃわかりにくいかもしれないけどこっちの人間にしてみれば当然のことなの」
「ウーニャー……ふむ……」
とこれはウーニャー。
「パパ。パパは神を信じていないの?」
「お国柄ね。持っていたとしても精霊信仰に近い宗教論かな?」
「エルフ……だね……!」
何がそうさせるのか嬉しそうにイナフ。
僕はトランプを切り終えると席に座っている僕以外の全員に配る。
やっているのは大貧民だ。
とまれ、
「まぁ何というか……エルフ魔術や精霊信仰についてエルフと日本人が相似するのは否めないね。閉鎖的な価値観も相まって。こっちの人間は他大陸でも一神教なの?」
言い訳ついでにゴッド王に問うてみる。
「人である限り一神教でしょうね。解釈の違いはありますが……」
僕は無言で茶を飲んだ。
何処に行っても人間の営みに違いはないということだ。
そこでフォトンがハッとなり会話の流れを奪う。
「ところでその巫女についてなんですけど……」
「なんでしょうフォトン様?」
「謁見に都合をつけてもらえませんか? ゴッド王の権力で……」
「可能ですが……」
「え? 巫女さんに会うのに許可がいるの?」
そんな僕の困惑に、
「おいそれと会える方ではありませんよ」
フォトンが苦笑した。
なんだかなぁ……。
不条理に思いながら茶を一口。